歴代ブラック企業大賞 結果

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仕事

第8回ブラック企業大賞2019

【大賞】
三菱電機株式会社(メルコセミコンダクタエンジニアリング株式会社)

【特別賞】
株式会社電通
株式会社セブンーイレブン・ジャパン社

【#MeToo賞】
長崎市

【ウェブ投票賞】
楽天株式会社

※ウェブ投票賞の結果
1.楽天株式会社 10303票
2.三菱電機株式会社(メルコセミコンダクタエンジニアリング株式会社)7507票
3.株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 919票
4.長崎市 439票
5.吉本興業株式会社 327票
6.株式会社電通 297票
7.KDDI株式会社 274票
8.トヨタ自動車株式会社 101票
9.株式会社ロピア 66票

1.KDDI株式会社
KDDI株式会社は契約数で国内2位の携帯電話ブランド「au」を展開する通信事業者である。
同社では2015年9月に入社2年目の20代社員が、過労死ライン以上となる月90時間を超える残業をした末に自死する事件が発生した。労働基準監督署からは労働時間のほか仕事量や勤務内容の変更、さらに指導を行った上司とのトラブルが強い心理的な負担になったと判断され、2018年5月に労災と認定された。また、同年6月には労基署からサービス残業についての是正勧告とメンタルヘルス対策の改善などについての行政指導も受けた。
さらに同社は上記社員が亡くなった後の2017年9月、労基署から長時間労働やサービス残業についての是正勧告を受けたことから全社員を対象に未払い賃金の有無に関する調査を実施。この結果、従業員4613人に対し計約6億7千万円(15年と16年の2年分)の残業代が未払いとなっていた事実が判明し、2017年11月に清算した。
こうした一連の事実について同社はこれまで公表してこなかったが、上記過労自死遺族との話し合いを経て、今年3月29日にようやく公表に踏み切ったことを明かしている。
20代社員の自死という事態の重大さ、同社によって残業代を搾取された従業員の数や金額の大きさもさることながら、日本を代表する企業が、自らの不祥事を長年にわたり隠蔽してきた行為の重さも考慮してノミネートした。

2.株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
セブン‐イレブン・ジャパンは総店舗数2万店超、チェーン全店で4兆8000億円以上を売り上げる日本最大のコンビニチェーン「セブン‐イレブン」の運営企業である。
2019年12月、同社は全国のフランチャイズ加盟店から「代行」して支払っていたアルバイト・パートらの残業代の一部が少なくとも1978年から未払いだったと発表した。対象となるのは本部にデータが残る2012年3月以降だけで8129店の計3万405人、未払い額は遅延損害金を含めて4億9000万円に上るとされる。
 同社では加盟店従業員の残業代が70年代から未払いであった事実を、2001年に加盟店が労基署から指摘を受けたことで把握。だがこの際に導入した時間外手当の計算式に誤りがあり、この後も労基法が定める5分の1の残業代しか払ってこなかった。その間、未払い賃金の精算は行わず、労基署が加盟店に是正勧告した今年9月まで違法な状態が続いていた事実も公表してこなかった。
なお同社に対して本実行委員会は2015年、主に加盟店に対する不公正な扱いを理由に大賞を授けているが、2019年には同社の加盟店オーナーが契約内容に関する告発を立て続けにメディアを通じて行い、9月には公正取引委員会がコンビニ業界の実態調査を行う方針を明らかにしたほか、11月には本部社員が加盟店に無断で商品発注していたことも発覚した。
ただでさえ低賃金にあえぐ非正規労働者の賃金を永年にわたり搾取し、その事実を隠蔽したことの重大性に加え、対加盟店の関係でも依然多くの問題を抱える同社の状況を憂慮し、再びノミネートした。

3.株式会社電通
株式会社電通は広告代理店として日本において最大手企業である。
報道によると、2019年9月、同社は、2018年の社員の違法残業や、残業時間の上限を定める労使協定(36協定)の違法な延長などを指摘され、労働基準法と労働安全衛生法に違反したとして三田労働基準監督署から是正勧告を受けたという。周知のとおり、同社は、2017年10月に労基法違反の有罪判決が確定している。それにもかかわらず、その後の状態について是正勧告が出されたことになる。既に、同社は、2010年から15年にかけて、全国各地の労基署から是正勧告を受けている。
さらに、2015年12月には、新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が自死し、2016年9月に労災認定されている。電通では、「殺されても放すな、目的完遂までは……」などの『鬼十則』に象徴される経営側の精神訓の下、16年前には入社2年目の男性社員の自死が過労死と認定され、6年前にも30歳の男性社員の病死が過労死と認定されている。こうしたことから「ブラック企業大賞2016」の大賞を受賞した経歴もある。
このように、同社は多数の過労死の被害者を出し、労基法違反の有罪判決を受け、社会的にも大きな批判にさらされているにもかかわらず、再び複数の違法行為で労基署から是正勧告を受けたという悪質性に鑑みノミネートした。

4.株式会社ロピア
株式会社ロピアは神奈川県藤沢市に本社を置き、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県に47店舗(2019年11月現在)を出店するスーパーマーケットチェーンである。
同社では2018年6月、ロピア店舗の食肉部門に勤務する男性が、3000円相当の精肉商品をレジで精算することなく持ち帰ったところ、会社が警察に通報して懲戒解雇処分とした。さらにこの男性の自宅付近の店も含む全店舗において、男性を名指しの上で「窃盗を理由に懲戒解雇した」という掲示を行った。
男性は会計せずに持ち帰ったのは単なる過失であったと主張し、解雇の撤回などを求め横浜地裁に提訴。2019年10月10日には裁判所がその訴えを認め、解雇の無効と解雇日から判決までの給料支払い、さらに掲示による名誉毀損の慰謝料として77万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
さらにこの裁判を通じては、男性が経営に関する権限がない一般従業員であったにもかかわらず残業代が支払われない「名ばかり管理職」であったことが確認され、横浜地裁は未払い残業代約100万円の支払いも命じている。
わずか1つの事件のうちに、ブラック企業でありがちな事象がいくつも見られる事例であることからノミネートした。

5.長崎市
長崎市は、地方自治法1条の3に基づく普通地方公共団体である。同市では、2007年7月、原爆祈念式典に向けての取材にあたる女性記者に同市の原爆被曝対策部長(当時)が性暴力をふるうという事件が発生した。同年10月頃、長崎市は関係者に対して内部調査を開始した。ところが、その直後、当該部長は自殺してしまい、結局、調査は加害者の主張のみを聴取するにとどまったまま終了してしまった。田上富久市長は記者会見を開き、当該市幹部が自死したことと記者へのわいせつ行為についての報道などで混乱を招いたことを詫びた。しかし、被害者への謝罪はなかった。
2014年、日本弁護士連合会(日弁連)において「職務上の優越的地位」を濫用して市幹部が女性記者に対して性暴力をふるい、女性への人権侵害があったこと、さらに別の市幹部も被害者を貶める虚偽の情報を広めて二次被害を引き起こしたこと、そして同市がこれを放置したことを認定し、同市に対し、女性の名誉回復に向けた謝罪文とさらなる性暴力の防止策を徹底するよう勧告した。しかし、同市は、日弁連の調査は不十分であるとして勧告を受け入れなかった。その後も同市の態度は変わることがなかったため、2019年4月、女性は損害賠償を求めて同市を提訴した。
圧倒的な力関係の中で情報を引き合いにして報道記者の人権と自由を奪うことは、報道の自由だけでなく市民の知る権利をも侵害する。世界的に#MeToo運動が広がる一方で、同じく世界に知られる平和都市・長崎が被害者への謝罪も救済もしていない。そればかりか、今でも市議会においてこの問題が出ると「被害者はどっちだ」などとヤジが飛び、二次被害ともいえるような状況がつづいている。このような状況となっている点からノミネートした。

6.トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、自動車の生産・販売を主な事業とする世界的企業である。
報道によると、2015年4月に入社した男性社員は、2016年3月に本社配属された翌月から、日常的に上司から「バカ、アホ」と言われ、「こんな説明できないなら死んだ方がいい」とも言われたという。また、個室に呼び出されて「俺の発言を録音していないだろうな。携帯電話を出せ」などと詰め寄られたこともあった。
その後、同社員は3カ月間休職。復帰したものの「死にたい」などと同僚に漏らすようになり、2016年10月に社員寮の自室で自死した。死亡時28歳だった。男性の死後、遺族は豊田労働基準監督署(愛知県豊田市)に労災申請した。2019年9月、豊田労基署は、男性はパワハラが原因で適応障害を発症し、職場復帰後も治癒していなかったとして、男性の自死を労働災害として認定した。また、同社では、2002年にも過労死事件が発生している。
パワハラが社会的に大きな問題になる中で、日本を代表する大企業が新入社員を短期間に自死まで追い込んだ事案であり重大であることからノミネートした。

7.三菱電機株式会社(メルコセミコンダクタエンジニアリング株式会社)
三菱電機株式会社は、家電から発電機まで様々な電気製品を製造するメーカー企業であり、我が国の代表的な大企業である。また、メルコセミコンダクタエンジニアリング株式会社(以下「MSEC社」)は、三菱電機パワーデバイス製作所(福岡市)内に本社を置く三菱電機の子会社であり、MSEC社の役員の過半数は、三菱電機の社員であるという。
報道によると、2017年末、MSEC社では、当時40代の技術者が自死し、2019年10月に但馬労働基準監督署(兵庫県豊岡市)によって長時間労働による労災であると認定された、とのことである。三菱電機グループでは、2014年以降に、社員が自死したり精神障害を発症したりしたケースが判明したのは、これで3人目となる。また、三菱電機では、2014年~17年にシステム開発の技術者や研究職の男性社員5人が長時間労働が原因で労災認定され、うち2人が過労自死だったことも報道されているところである。
こうしたことから、三菱電機は、「ブラック企業大賞2018」の大賞を受賞した経歴もある。複数の過労自死を出した大企業の子会社において、新たな過労自死が発生していることは重大であることから、三菱電機及びその子会社であるMSEC社をノミネートした。
なお、三菱電機では、20代の男性新入社員が2019年8月に自死し、教育主任だった30代の男性社員が自殺教唆の疑いで兵庫県警三田署によって神戸地検に書類送検され、自死の現場には、教育主任から「死ね」などと言われたことなどを書いたメモが残されていたとの報道もなされおり、衆目を集めたところでもある。

8.吉本興業株式会社
吉本興業株式会社は1912年(明治45年)に創業され、お笑い芸人を中心に総勢6000人以上のタレントが所属する日本最大級の芸能プロダクションである。
今年4月の新聞各紙報道によると、同社および同社の子会社は従業員に過労死ラインを超える月100時間を超える残業をさせていたことから2012年3月に新宿労基署から是正勧告を受けた。また2018年8~9月には、就業規則を変更したのに労基署に届け出ていなかったり、休日勤務の割増賃金を十分に払っていなかったことなどから再度是正勧告を受けた。
さらに今年6月以降、同社に所属する複数のタレントが振り込め詐欺グループの宴会に金銭を受け取って参加していた所謂「闇営業」問題が発覚したが、この騒動が報じられる過程では同社と、同社にマネジメントを委託する所属タレント間でのギャランティ配分が不公平であること、またタレントとの間で正式な所属契約書をかわしていないことなどが指摘され問題になった。さらに、同社社長の所属タレントに対する言動がパワハラであるという指摘がなされ、議論を呼んだ。
近年、芸能界において多くのタレントが所属事務所との間で不公平な契約を甘受させられ、契約解除したタレントに対しては事務所が放送局などに圧力をかけ出演できなくすることもあるとされるなど、「芸能界における労働問題」がクローズアップされている。また、タレントの労働者性についても様々な議論がある。そうした問題の、ひとつの象徴事例として同社をノミネートした。

9.楽天株式会社
楽天株式会社は、ネット通販「楽天市場」を展開するなどインターネット関連の幅広い事業をおこなっている企業である。
報道によると、2016年6月、当時、社員だった男性は、会議で激高した上司から首付近をつかまれ、壁際に押しつけられたという。その際、頸髄を損傷して手足にまひが残り、うつ病を発症して現在も療養している。男性によれば、社内のパワハラ相談部署に掛け合ったが調査されず、配置転換の希望も受け入れられなかったため、暴行の1か月後に退職せざるを得なかった、とのことである。
男性は、渋谷労働基準監督署に労災申請をおこない、2017年8月、渋谷労基署は労災認定した。男性は、楽天株式会社に対して、「会社として責任を認めてほしい」と求めている。会社内での暴行事件は、零細企業において発生した前例は相当数存在するが、プロ野球球団を運営するような大手企業において、しかも会議中に暴行事件が発生するなどという事案は極めて稀である。大企業における企業内暴行事案として看過できないためノミネートした。

第7回ブラック企業大賞2018

【 大賞 】

三菱電機株式会社

【 WEB投票賞 】

財務省

【 特別賞 】

株式会社日立製作所・株式会社日立プラントサービス

【 有給ちゃんと取らせま賞 】

株式会社ジャパンビバレッジ東京

1.株式会社ジャパンビバレッジ東京

株式会社ジャパンビバレッジ東京は、サントリー食品インターナショナルグループ傘下の自動販売機オペレーション大手・ジャパンビバレッジホールディングスの子会社である。同社は、2017 年末に足立労働基準監督署により「事業場外みなし労働時間制度」の違法適用を指導され、違法な長時間残業があったとして是正勧告を受けた。この労働者の残業時間は月100 時間を超えていたという。しかし、同社はこの制度を違法適用したことで、1日10 時間を超える自動販売機の補充などの労働に対して、7時間45 分の給与しか支払っていなかった。また、ある支店の支店長がクイズを出し、正解者にのみ有給休暇の取得を認める「有給チャンス」とよばれるパワハラの存在も明らかとなり、メディを賑わせた。言うまでもないが、有給休暇の取得は労働者の権利であるので、「クイズに正解すること」をその取得条件とすることは法律違反である。この「有給チャンス」問題に関連して、同社の複数の管理職が処分されたという。自動販売機でいつでも飲み物が買えるのは、その自動販売機に飲料を補充する労働者があってのことであるが、その利便性の裏には、無理のある労働条件や有給休暇すらまともに取らせないパワーハラスメントなどの横行があったことは、世に広く知られるべきことであるのでノミネートした。

2.株式会社日立製作所・株式会社日立プラントサービス

株式会社日立製作所は、日立グループの中核的企業であり、日本を代表する電機メーカーである。会長の中西宏明氏は、日本経団連会長を務めている。また、日立プラントサービスは日立製作所のグループ会社である。2013 年に同社に新卒入社した20 代の労働者が、日立プラントサービスに在籍出向中、精神疾患によって労災認定された。この労働者は富山県の工事現場で設計・施工管理監督をしていたが、月100 時間を超える長時間残業が頻発し、最大で月160 時間を超えていた。さらに、所長から「いらない」「着工まで不要」「めざわりだから帰れ」「仕事辞めてしまえ」などの暴言を受け続け、労働時間を勤怠記録に記入する際には「考えてからつけるように」と言われ、労働時間の過少申告に追い詰められた。さらには座っていた椅子を蹴られており、これらの長時間労働やパワハラによって精神疾患を発症した。加えて、同社では山口県の笠戸事業所において、数百名のフィリピン人技能実習生を不正に働かせていたとして、法務省が技能実習適正化法違反の疑いで同社を調査している。報道によれば、彼らは配電盤や制御盤を作る「電気機器組み立て」を習得するはずが、窓や排水パイプ、カーペットやトイレを鉄道車両に取り付ける作業しかさせられていなかったという。技能実習生の在留資格の更新ができないことを理由に、すでに99 名が解雇されている。長時間労働とパワハラによって深刻な労災が発生したこと、また、外国人技能実習生に対する扱いの不適切さからノミネートした。

3.株式会社モンテローザ

株式会社モンテローザは「白木屋」「魚民」「笑笑」「目利きの銀次」「山内農場」などの居酒屋チェーンを展開する外食企業である。2017 年6 月、同社が福岡県福岡市で運営する「わらわら九大学研都市駅店」の店長(当時53 歳)が開店準備中に倒れ、致死性不整脈で亡くなった。遺族の労災申請を受けて福岡中央労働基準監督署が調査したところ、男性が亡くなるまでの3カ月間の時間外労働が過労死ラインとされる月80 時間におおむね達していると確認されたことなどから、今年8 月7 日、労災と認定された。男性のいとこがインターネットで発表した告発漫画によれば、男性は生前、友人とのLINE で「15 時から深夜3時まで勤務。それから6 時台の始発まで帰れず、8 時前にやっと帰宅。そのあと12 時には起きないといけない」「地獄です」などと漏らしていた。モンテローザでは各店に勤怠管理ソフトを導入しており、亡くなった男性も記録上は週に2 日休み、休憩も取れていることになっていた。だが上記漫画や一部報道によれば、このソフトは一種の「労基署対策」であり、実際はサービス残業や休日出勤、休憩なしの労働がまかり通っていたという。外食産業における長時間労働の結果の過労死という幾度となく繰り返される悲劇は、けっして看過できないためノミネートした。  

4.ゴンチャロフ製菓株式会社

ゴンチャロフ製菓株式会社は神戸市に本社を置き、チョコレート・焼き菓子などの洋菓子の製造販売及び喫茶経営を手がけている。2016 年6 月、同社の工場に勤務していた当時20 歳の男性が電車に飛び込んで自殺した。これが長時間労働と上司によるパワーハラスメントが原因として、2018 年6 月に西宮労働基準監督署により労災認定された。報道によると、チョコレート製造などに携わっていた男性は、廃棄品は牧場に回されることから、ミスをすると「牛のえさ、作りに来とんか」と責められ、辞意を申し出ると「お前の出身高校からはもう採用しない」と叱られるなど、上司からパワハラを受けていたという。さらに男性は2015 年9 月~12 月には月約80~100 時間の残業をしており、同労基署は「業務による強い心理的負荷が認められる」とした。長時間労働とパワーハラスメントによって20 歳の若い命が奪われるという痛ましい事例であり、近年社会問題となっている長時間労働とパワーハラスメントを象徴する事例としてノミネートした。

5.財務省

財務省は、国家予算の編成などを担う省庁の1つであり、行政の中枢に位置付けられる国の重要機関である。今年4月、当時、財務省の事務方のトップである事務次官が、テレビ朝日の女性記者に対して、取材中に性的な言動を繰り返していたことが報道された。同省の最高責任者である麻生太郎財務大臣は当初、事実関係の確認には双方から意見を聴くべきだなどとし、被害女性に名乗りでるよう促す一方で、事務次官がはめられた可能性などにも言及した。その後、財務省は顧問弁護士に調査を委託。同月27日の記者会見で、事務次官によるセクシュアルハラスメント(セクハラ)があったと判断したことを発表した。なお、事務次官側はセクハラについて否定している。この過程で麻生大臣は、日本には「セクハラ罪という罪はない」と発言し、セクハラを軽視する態度を崩さなかった。また、セクハラ行為を防止することが第一であるはずなのに、「男を番記者にすればいい」などと女性記者を排除するような発言もあった。こうした麻生大臣の言動は、セクハラが深刻な社会問題であることの認識を欠いていると指摘せざるを得ない。現在、健全な民間企業はセクハラなどのハラスメントをなくそうと努力している。にもかかわらず、「女性活躍」を標榜する政府の中枢機関で起きたセクハラ事件に対して、その対応があまりにお粗末であったと言わざるを得ない。その悪影響は計り知れないほど大きい。そこで、民間企業ではないが特別にノミネートした。

6.スルガ銀行株式会社

スルガ銀行は静岡県沼津市に本店を置き、東京ほかの大都市でも営業展開していた地方銀行である。同行では、今年5 月に破産手続開始が決定し破綻した不動産会社「スマートデイズ」の勧誘のもと同社のシェアハウスに投資していた一般投資家らに不正な融資をしていたことが判明し、今年9 月7 日にはこの問題に関する第三者委員会(委員長=中村直人弁護士)の調査報告書が公表された。これにより、同行が行員たちに過大なノルマを押し付ける一方、達成できない人に対しては凄絶なパワーハラスメントを行っていたことが発覚した。上記報告書によれば、第三者委ではスルガ銀行の全行員を対象にアンケート調査を実施。その結果、「首を捕まれ壁に押し当てられ、顔の横の壁を殴った」「数字ができないなら、ビルから飛び降りろといわれた」、「ゴミ箱を蹴り上げたり、空のカフェ飲料のカップを投げつけられた」「死んでも頑張りますに対し、それなら死んでみろと叱責された」「ものを投げつけられ、パソコンにパンチされ、お前の家族皆殺しにしてやるといわれた」…などの回答が多数寄せられたとされており、第三者委もこうしたパワハラの蔓延が不正融資の温床になったとの見方を示している。パワハラ行為それ自体のひどさもさることながら、この放置・励行が最終的には社会全体に害を及ぼすことの実例としてノミネートした。

7.野村不動産株式会社

野村不動産株式会社は、不動産業界の最大手企業である。野村不動産では、「裁量労働制」が違法適用されていた2016 年9月、50 代の男性社員が過労自殺していたことが今年3 月発覚した。同社では2005 年、会社の中枢で経営企画の立案や情報分析などを行う社員が対象の「企画業務型裁量労働制」を約600 人の社員に適用した。だが実際には、マンションの営業担当など本来は適用の対象とはならない業務の担当者がここに多数含まれており、亡くなった社員もこれを適用された結果、一ヶ月の残業時間が180 時間を超えることもある長時間労働を強いられていた。上記の過労自殺が労災認定された2017 年12 月には、こうした裁量労働制の違法適用とそれに伴う違法残業、残業代未払いなどにより同社の東京本社など5 つの事業所が労働基準監督署から是正勧告を受けたほか、宮島誠一社長が東京労働局から是正の特別指導を受けている。裁量労働制が違法な長時間労働の温床となっている事実を示し、その悪用が最悪の労災事故を引き起こした事例としてノミネートした。

8.三菱電機株式会社

三菱電機株式会社は、家電から発電機まで様々な電気製品を製造するメーカー企業であり、我が国の代表的な大企業である。同社では男性社員5人が長時間労働が原因で精神障害や脳疾患を発症して2014~17年に相次いで労災認定されていたことが発覚した。5人はシステム開発の技術者か研究職で、そのうち2人は過労自死しており、3人には裁量労働制が適用されていた。裁量労働制が適用された3名の中には過労自死した社員も含まれていたという。同社・ネットワーク製作所(兵庫県尼崎市)に勤務し、2016年2月に過労自死した男性社員は亡くなる4カ月ほど前から法定時間を上回る残業がそれ以前の約5倍に急増し、月80時間前後の残業が続いたという。この時期に精神障害が発症したとして、2017年6月に労災認定された。裁量労働制が適用されていたため「残業」扱いにもなっていない。また、同社名古屋製作所(名古屋市)の技術者の男性社員(当時28歳)は、2012年8月に過労自死した。2011年にシステム開発プロジェクトの担当に任命されたが、システムに次々と不具合が発生した。完成が予定に間に合わず、遅れを取り戻すために月100時間を超す長時間労働が数カ月続き、精神障害を発症。2014年12月に労災認定された。長時間労働による過労死という深刻な事故を起こしながら、同社は再発防止できず、4年間に2人もの過労自死を出したことは極めて重大であり、短期間に長時間労働を原因とした労災が5件も認定されたことも異常な状況であるため、ノミネートした。

第6回ブラック企業大賞2017

●ブラック企業大賞: 株式会社引越社・株式会社引越社関東・株式会社引越社関西

 引越社グループは、引越社関東所属の男性営業社員をシュレッダー係に配転し、懲戒解雇をしました。懲戒解雇の理由を「罪状」などと記載し、男性の顔写真を入れた書類(罪状ペーパー)を、貴社グループの店舗へ掲示。さらに、貴社は同様の文面を全従業員に送る社内報へ掲載し、送付しました。
 今年8月、東京都労働委員会はこれらの行為は、男性が労働組合(プレカリアートユニオン)に加入したことによるものであるとして、不当労働行為であると認定しました。また、東京都労働委員会は、貴社が労組へ加入した従業員らに対し、労組からの脱退を促す行為をしたとして、これも不当労働行為であると認定しています。
 引越社関東は、2年前に開催された「ブラック企業大賞2015」において「ウェブ投票賞」「アリ得ないで賞」をW(ダブル)受賞しています。その際「ブラック企業大賞をエサに企業恐喝まがいの行為をし、金銭を要求することが真の目的なのかもしれない」などと、ウェブ媒体で副社長は事実無根の大嘘を述べ、恥を上塗りしました。
 解雇撤回後も約2年にわたり、男性営業社員に終日シュレッダー業務を強いるなどの、人権侵害行為を続けた引越社グループ。その漆黒なるブラックぶりを早期に改め、貴社がまともな企業へ再生することを切に願い、ここに「ブラック企業大賞2017」の大賞を授与します。

●特別賞:大成建設株式会社・三信建設工業株式会社

 今年3月、東京オリンピック・パラリンピックで使用するメインスタジアム「新国立競技場」の建設工事の現場で働く、当時23歳の男性が自死しました。この事案については新宿労働基準監督署が労災認定しています。
 新国立競技場の建設工事は、大成建設株式会社が元請としておこなっており、その一次下請け企業である三信建設工業株式会社に男性は雇用されていました。男性が自殺する前の1カ月の残業は約190時間であった。この事件を機に、東京労働局は、「新国立競技場」の建設工事に関わる約760社を調査した結果、37社で違法な時間外労働が確認され、新宿労基署が是正勧告をしました。
 東京オリンピックの施設を無理な工程で急がせていたことが、この痛ましい自死の背景にあります。人の死を招くほどの長時間労働は必要なのでしょうか? オリンピックの美名の下に若いいのちが失われた事実を私たちはけして忘れてはならない。よって、ここに「ブラック企業大賞2017」特別賞を授与します。

●業界賞:新潟市民病院

 貴院は2016年1月、当時37歳だった研修医を過労自殺に追いやりました。研修医が亡くなる前の残業時間は月平均で過労死ラインの二倍に相当する187時間、最大で251時間に及び、これは本年のノミネート企業中最多です。
 この悲劇が新潟市の運営する公立病院で起きたという事実も、強調されるべき点でしょう。全国医師ユニオンが今年11月に公表した勤務医労働実態の調査結果によると、全国の勤務医のうち過労死ラインである月80時間を超える時間外労働を行っている医師は常勤医で4.9%、当直を行う常勤医で7.3%、初期研修医8.5%、後期研修医では18.9%に上り、このデータ通り近年、医師の過労死が多数報告されています。
 さらに日本医療労働組合連合会(医労連)が2013年に実施した看護職員の労働実態調査調査では、全国の看護師の125人に一人が過労死ライン超えの働き方をしているとされています。人の命を救う医療・看護の現場において、その実務に携わる労働者たちの命が日常的に脅かされているなど、あってはならないことです。そこで貴院に対し「業界賞」を進呈し、これが全国の勤務医・看護師たちの労働環境が一日も早く適正化されるための、一助となるよう願うものです。

●ブラック研修賞 ゼリア新薬工業株式会社

 貴社は2013年5月、ビジネスグランドワークス社に委託し行っていた新入社員研修において、当時22歳の新入社員を精神的に迫害し、追い詰め、死に追いやりました。
 過去のいじめ体験や、本当にそのような事実があったかさえ定かでない吃音について大勢の同僚の前で告白させたその研修内容は、貴社の業務をこなしていく上で全く必要のないものであり、無意味です。仮に意味があったのだとすれば、それは貴社が、従業員は使い捨ての道具でしかなく人格は不要とみなしていたがゆえに、従業員の自我を崩壊させる積極的な必要性を感じていた、という以外の理由は考えられません。これは許されざる人権侵害です。
 一方で残念なことに、貴社以外の多くの企業もビジネスグランドワークス社、あるいは同種の別企業に新人研修を委託し、洗脳まがいの研修を実施してきた現実から目をそむけることもできません。そこで貴社に「ブラック研修修賞」を進呈し、これにより、従業員に人格を認めない貴社のような企業が少しでも減ることを願うものです。

●ウェブ投票賞 日本放送協会(NHK)

 貴社は、第6回ブラック企業大賞における一般市民からのウェブ投票において、3855票(ウェブ投票3848票、授賞式会場での直接投票7票)と、他企業と比べ圧倒的に多い票数を得ました。
 これも貴社の労働者へのひどい仕打ちがインターネット等を通じ、全国に知られることとなり、多くの人たちからの批判が生まれていることの結果です。ここにウェブ投票賞を贈呈し、一日も早い改善を求めるとともに、貴社が今後より一層労働問題の報道に取り組むことを望みます。

1.ゼリア新薬工業株式会社
ゼリア新薬工業は医療用医薬品、一般医薬品のほか「ヘパリーゼ」など健康食品の製造販売を行う大手製薬会社である。同社では2013年4月にMR(医薬情報担当者)として入社した当時22歳の男性社員が、新人研修受講中の同年5月18日に自殺した。
同社の新人研修は人材コンサルタント企業ビジネスグランドワークス(以下、BGW)に一部委託されており、亡くなった男性はこのBGWの講師によって、かつて吃音だったことやいじめを受けていたことを大勢の同期の前で告白させられるなどした結果、「強い心理的負荷」を受け精神疾患を発症。言動に異常が見られるようになり自宅に帰された帰宅途中で自ら命を絶った。男性は亡くなる前「研修報告書」に、同僚らにいじめ体験を知られた際のショックについて書き記す一方、「本当の礼儀を身につけ先生(講師)を見返したい」などとも書いていたが、それにBGWの講師は、「何バカな事を考えているの」「いつまで天狗やっている」などとコメントしていた。男性の自殺は2015年5月に中央労働基準監督署が労災と認定。今年8月には遺族がゼリア新薬とBGW、BGWの講師らを相手取り、東京地裁に合計約1億500万円の損害賠償請求を提訴したことを明らかにした。

2.株式会社いなげや
株式会社いなげやは、関東地方を中心に、2017年6月末時点で137店舗を出店するスーパーマーケットチェーンである。
同社では2014年5月25日、「いなげや」志木柏町店(埼玉県志木市)のチーフだった男性社員(当時42歳)が勤務中に突然呂律が回らなくなり救急搬送され入院。同年6月2日には仕事に復帰したが、同5日の夜に店の駐車場で倒れているところを客に発見され、意識が戻らないまま同月21日に脳血栓により亡くなった。男性の死は2016年6月にさいたま労働基準監督署によって労災と認定され、今年4月に遺族側代理人が会見したことで本件の存在が明らかになった。
代理人によると、亡くなった男性の発症前4か月前の時間外労働は96時間35分、発症前の4カ月平均で75時間53分に到達。ただこの店ではタイムカード打刻前・後のサービス残業が行われていたことが確認されており、上記以外にも「日・時間が特定できない労働時間」があったと推定されている。遺族は会社に対し1億5000万円の損害賠償のほか謝罪、職場環境改善を求めているという。
なお、いなげやでは2003年10月にも従業員が過労自殺し、のちに労災と認定されており、過労による死者が出たのは2度目である。

3.パナソニック株式会社
パナソニックは家電業界では国内首位の総合電機メーカーである。
同社では2016年6月、パナソニックデバイスソリューション事業部の富山工場(富山県砺波市(となみし))に勤務する40代の男性社員が自殺。これが2017年2月に砺波労働基準監督署により過労による自殺であったと認定された。同労基署によれば、男性の残業時間は16年5月には100時間を超えていたという。
さらにこの過労自殺を端緒として始まった調査により、2017年3月15日には法人としてのパナソニックと幹部社員2人が、上記富山工場に勤務していた社員3人に対し最長で月97~138時間の違法な長時間残業をさせたとして、労働基準法違反の容疑で書類送検されている。同社は従前、仕事と育児の両立支援でトップクラスの実績を上げている企業として厚生労働省から「プラチナくるみん」の認定を受け税制優遇措置も受けていたが、この書類送検を受けて厚労省から認定を外されている。
なおパナソニック側は「雇用関係がない」としているが、同社の福井市の工場に勤務していた2次下請け会社の社員も2015年10月にクモ膜下出血により死亡しており、2017年1月に福井労基署により過労死と認定されている。

4.新潟市民病院
新潟市民病院は、1973年に設立され「人間性豊かな医療人の育成をめざします。」「患者さんに信頼される、ぬくもりのある医療をめざします」とうたう公立総合病院である。
2016年1月、37歳女性研修医が、長時間勤務が続いたことで睡眠薬を服用して自殺した。女性の月平均残業時間は187時間、もっとも長い月で251時間だった。報道によると、女性が時間外労働を48時間として申告していたことから、病院側は電子カルテの操作記録をもとに算出した残業時間を「…多くは医師としての学習が目的で、労働時間に当たらない」と弁明したという。亡くなる直前、女性は、「気力がない」「病院に行きたくないし、人とも会いたくない」ともらし始めたという。女性の夫は、「病院による殺人に等しい」と語っている。今年5月、女性の自殺は長時間労働による過労が原因として労災認定された。

5.日本放送協会(NHK)
日本放送協会は、放送法に基づき設立される放送事業を行う特殊法人である。
NHKでは、2013年7月、当時、31歳だった女性記者がうっ血性心不全で死亡した。2014年、女性の死因は長時間労働による過労が原因であるとして労災認定された。渋谷労基署によると、亡くなる直前の2013年6月下旬から7月下旬まで1カ月間の時間外労働(残業)は159時間37分。5月下旬からの1カ月間も146時間57分にものぼった。なお、遺族側の調査では、亡くなる直前の残業時間は209時間とされている。労基署は2013年に実施された都議選と参院選の取材で「深夜に及ぶ業務や十分な休日の確保もできない状況にあった」と認定し、「相当の疲労の蓄積、恒常的な睡眠不足の状態であったことが推測される」としている。当時、NHKは、記者について、会社の外で働く時間が長く労働時間の算定が難しいため、あらかじめ決まった一定時間を働いたとみなす「事業場外みなし労働時間制」を適用していた。NHKは、今年10月、女性の過労死事件があったことを公表した。遺族は、NHKの労務管理に不備があったために過労死が発生したとして、「人災である」としている。

6.株式会社引越社・株式会社引越社関東・株式会社引越社関西
株式会社引越社・株式会社引越社関東・株式会社引越社関西(以下「引越社グループ」という。)は、「アリさんマークの引越社」として全国で営業展開する引越による荷物の運搬等を業とする企業である。
引越社グループは、引越社関東所属の男性営業社員をシュレッダー係に配転したり、懲戒解雇したしりした。懲戒解雇においては、その理由を「罪状」などと記載して男性の顔写真を入れた書類(罪状ペーパー)を、引越社グループの店舗に掲示するなどした。さらに、同社は同様の文面を全従業員に送る社内報にも掲載し、送付した。今年8月、東京都労働委員会はこれらの行為は、男性が労働組合(プレカリアートユニオン)に加入したことによるものであるとして、不当労働行為であると認定した。また、東京都労働委員会は、引越社グループが労組へ加入した従業員らに対し、労組からの脱退を促す行為をしたとして、これも不当労働行為であると認定した。
また、引越社グループでは、今年3月、「組合への勧誘は悪徳マルチ商法への勧誘が本当の目的」との張り紙をした行為は不法行為であるとして、名古屋地裁により、50万円の支払を命じられている。

7.大成建設株式会社・三信建設工業株式会社
大成建設株式会社は、我が国有数の大手総合建設会社である。同社は、東京オリンピック・パラリンピックで使用するメインスタジアム「新国立競技場」の建設工事の元請け企業である。三信建設工業株式会社は、特殊基礎土木工事業(地盤注入工事、アンカー・斜面安定工事、地盤改良工事など)を業とする企業で、「新国立競技場」建設において、大成建設から地盤改良工事を請け負った一次下請け企業である。
今年3月、三信建設工業の新人男性社員(当時23歳)が自殺した。10月、新宿労働基準監督署は、男性の自殺は長時間労働による過労が原因の労災であると認定した。報道によると、男性が自殺する前の1カ月の残業は約190時間であったという。この事件を機に、東京労働局は、「新国立競技場」の建設工事に関わる約760社を調査した結果、37社で違法な時間外労働が確認され、新宿労基署が是正勧告をした。報道では、このうち、元請けや1次下請けの長時間労働が顕著で、労働局の担当者は「施工管理者が多く、現場作業後のデスクワークで長くなる傾向がある」と指摘しているという。新宿労基署は、元請けの大成建設にも、入退場記録を提供するなど下請け会社に労働時間の適切な把握を促すよう求め、行政指導を行った。

8.大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業株式会社は国内最大手の総合住宅メーカーである。2017年9月、同社が埼玉西支社に営業職として勤務していた20代男性に違法な時間外労働をさせ、川越労働基準監督署から同年6月29日付で是正勧告を受けていたことが、男性が加盟する「ブラック企業ユニオン」の会見で明らかになった。
同社は2011年にも労働時間の管理に関して是正勧告を受けており、それ以降は一定の時間になると消灯して社員を帰宅させるなどの長時間労働対策を実施していた。
だが男性は、日中にモデルルームなどで住宅販売の営業をした後にも資料作成など多量の業務を課されており、これをこなすためにやむなく住宅展示場の事務所や営業車内で隠れて深夜まで残業していた。労使協定で定められた繁忙期の残業時間上限が月80時間であるところ、男性の残業時間は2015年5月には月109時間に到達。長時間労働の末うつ病になった男性は、2016年5月に退職を余儀なくされていた。

9.ヤマト運輸株式会社
  ヤマト運輸株式会社は国内最大手の宅配便事業者である。同社は、労働基準法への違反例が過去1年あまりに限ってみても数多く報じられている。
2016年12月には、神奈川平川町支店のセールスドライバー(SD)に対して残業代の未払いなどがあったとして横浜北労働基準監督署から是正勧告を受けたほか、2017年5月にはパート従業員の勤務時間改ざんと賃金の未払いがあったとして、同社西宮支店に西宮労働基準監督署から是正勧告を受けている。さらに17年9月20日には、博多北支店のSDに対し労使協定で定めた残業時間上限(1カ月95時間)を超える月102時間の残業を違法にさせていたとして、法人としての同社と、同支店の幹部社員2人が労働基準法違反の疑いで福岡地検に書類送検されている。

第5回ブラック企業大賞2016

●大賞:株式会社 電通
 電通で働いていた24歳の新入社員・高橋まつりさんは2015年12月25日に自殺した。時間外労働が月105時間という超長時間労働に加えて、上司からのパワハラによって精神的に追い込まれた結果だった。 彼女のツイッターには、「はたらきたくない。1日2時間の睡眠時間はレベルが高すぎる」といったものがあるのとともに、亡くなる数日前には「ブラック企業大賞2015」を報道したツイートをリツイートもしていた。 彼女は、亡くなる直前に母親にメールを送っている。「大好きで、大切な母さん、さようなら、ありがとう、人生も仕事もすべて辛いです。お母さん自分を責めないでね。最高のお母さんだから」。 電通においては、「殺されても放すな。目的完遂までは・・・」などという社訓『鬼十則』に象徴される異常な精神論が蔓延し、パワハラ・セクハラなどが日常化している。13年前にも入社2年目の男性社員の自殺が過労死と認定され、3年前にも30歳の男性社員の病死が過労死と認定されている。 電通は、このような過酷で人権侵害的な労働環境をまともに改善することもなく放置し続けた。何人もの労働者がこの企業によって殺された。 電通は、日本を代表する大企業である。それは輝かしい意味でではない。社会的に決して許されない人権侵害を続けた代表的企業である。ここに、強い怒りを込めて「ブラック企業大賞2016」の大賞を授与する。

●業界賞:ディスグランデ介護株式会社(「茶話本舗」FC企業)
 大手デイサービス企業である株式会社日本介護福祉グループが運営する茶話本舗のフランチャイズ店(ディスグランデ介護株式会社)ではサービス提供を行う介護労働者が過酷な労働環境で働かされていた。 その事業所では人手が少なく、日勤では10人近い利用者を2人で見ることもあるため、利用者の入浴や排泄があれば、1人で残りの利用者に対応しなければならなかった。そのため勤務中はまともに休憩を取ることができなかった。夜勤は1人体制で、呼び出しもあるため十分な仮眠を取れず、日中できなかった事務作業を行なっていた。こうした状況の中で、未払い賃金や休憩が取れないなどの違法状態が広がり、労働基準監督署から是正勧告が出された。 少子高齢化が進む日本社会において、介護サービスを提供する業界の社会的責任は重要性を増している。この介護業界の社会的重要性と、それを担う労働者が安全に働ける職場環境の構築は急務である。よって、貴社が自らの社会的責任に気づき、労働者を過酷な労働環境で働かせることのないように警告する意味を込め、ここに業界賞を授与する。

●業界賞:株式会社プリントパック
貴社は2010年に新入社員が印刷機に巻き込まれて死亡する労災事故を起こした。当時、この凄惨な死は貴社によって「機械の不具合」による業務遅延として発表された。その後、自らも月80時間前後の「過労死ライン」と見られる残業を繰り返し強いられていた労働者が、労働組合(全印総連ユニオン京・プリントパック京都分会)を結成したが、貴社は組合員に対する配転命令や、残業時間の長さを会社への貢献度と査定し、一時金などを支給しないなどの組合員差別を行った。同労組が京都府労働委員会に救済を申し立てたところ、2016年7月19日、府労委は、貴社による不当労働行為を認め、賃金や賞与の差額を支払うよう命じた。府労委の尋問で会社取締役は「組合員の異動はストライキを回避するための予防措置」「定時に退社することは、会社に対する抗議行動であり、ストライキと一緒である」と発言し敵意をむき出しにしたという。ブラック企業の存在によって、労働者を公正に雇用し、責任あるビジネスモデルで応えようとしても営業自体が成り立たない企業は増加している。業界の安易な低価格競争に警鐘を鳴らし、貴社が労働者を大切に扱うことを勧告する意味を込め、ここに「ブラック企業大賞2016」の「業界賞」を授与する。

●ブラックバイト賞:DWE JAPAN株式会社(「しゃぶしゃぶ温野菜」FC企業)
 貴社は、学生アルバイトに対し過酷な労働を強いたのみならず、店長の夫である元従業員が同学生に暴力行為を行うなどし、その職場環境は極めて劣悪なものであった。この元従業員の暴力行為は、その後、逮捕・略式起訴されるに至った。 この店舗でアルバイトをしていた学生は、4か月連続勤務や20万円以上の自腹購入を強いられており、学生は「辞めたい」と店長に訴えた。ところが、当時の店長は学生に対し「懲戒解雇にする。懲戒解雇となれば就職もできない」「店が潰れたら4000万円の損害賠償を請求する」と脅し、学生は辞めることができなかったという。その結果、学生は前期の単位を全て落とし、学業を脅かされてしまった。 大学学費の高騰や経済的背景から、アルバイトをせざるを得ない大学生が増加しているなか、アルバイト先で学業に支障をきたすほど過酷な労働を強いる「ブラックバイト」が増加していることは周知のとおりであるが、貴社は、これに犯罪行為(暴行行為)まで加わるなど、その中でも極めて悪質なものと認めることができる。よって、ここに、ブラックバイト賞を授与する。

●特別賞:日本郵便株式会社
 貴社は2011年12月心疾患で亡くなった男性従業員に対し、生前パワハラを行い、鬱病を悪化させた。また近年、貴社が運営する郵便局で従業員の自殺が相次ぎ、いずれも遺族はパワハラが原因と指摘している。貴社で起きる事件で、これほど「パワハラ」という言葉が聞かれるのは、異常な事態といえる。そもそも貴社は、年賀状などの販売で一人数千枚、一万枚など理不尽なノルマを課し、その結果従業員が高額の自腹購入を強いられていると度々報じられている。貴社は「強制ではない」などと否定するが、多くの不満の声が上がっていることは事実である。また、2011年には1万4000人もの非正規従業員を雇い止めにした。 ウェブ投票でも、貴社は圧倒的な勢いを見せ、2位にダブルスコアをつけ、独走状態での1位獲得となった。これこそ、貴社への怨嗟の声が渦巻いていることの証左である。 よって、貴社には、パワハラや自爆営業など、深刻な問題があると認め、ここに特別賞を授与する。 おりしも師走である。貴社が現場の従業員たちを酷使しないよう、警告する意味も込める。

●ウェブ投票賞:日本郵便株式会社
 貴社は、第5回ブラック企業大賞における一般市民からのウェブ投票において、5,967票(ウェブ投票5,958票、授賞式会場での直接投票9票)と、他企業と比べ圧倒的に多い票数を得ました。これも貴社の労働者へのひどい仕打ちがインターネット等を通じ、全国に知られることとなり、多くの人たちからの批判が生まれていることの結果です。ここにウェブ投票賞を贈呈するとともに、一日も早い改善を求めます。

1.株式会社エイジス

千葉県千葉市に本社を置き、JASDAQにも上場する棚卸し代行業者。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど小売店を顧客とし、同社ホームページによれば連結売上高218億2900万円 (2015年3月31日現在)、従業員数686名(2016年3月末現在)、全国に直営50拠点、FC36拠点(同)を擁する。同社は2016年5月19日、違法な長時間労働を行っていたとして千葉労働局から是正勧告を受け、同日厚生労働省により社名を公開された。同省の発表によれば、エイジスでは4カ所の営業所で合計63人の従業員が月100時間を超える残業を違法にさせられており、1ケ月あたりの時間外労働が最長で197時間におよぶケースもあった。厚労省では2015 年5月から、複数の事業場で違法な長時間労働を行う企業に対しては、都道府県労働局長が是正指導をした上で、企業名を公表するとの方針を決定。エイジスの事件は実際に公表された全国初のケースとなった。

2.株式会社 電通

同社は広告代理店として日本において最大手企業である。2015年12月25日、24歳の新入社員・高橋まつりさんが長時間労働の末に自殺した。その後、労働基準監督署は、これを過労によるものとして、労災として認定した。時間外労働が月105時間であったという。これに加えて、「はたらきたくない 1日の睡眠時間2時間はレベルが高すぎる。」など、彼女が残した過酷な労働実態を示すツイートの数々も明らかとなった。加えて上司によるパワハラを疑わせる書き込みまで残っていた。電通では、「殺されても放すな、目的完遂までは……」などの『鬼十則』に象徴される経営側の精神訓の下、13年前には入社2年目の男性社員の自殺が過労死と認定され、3年前にも30歳の男性社員の病死が過労死と認定されている。こうした状況下、電通は十分な改善策を実施しなかった。厚生労働省は10月に抜き打ちで電通本社への強制捜査を実施し、労働時間を正直に申告させず過少報告させる組織的な体質も浮かび上がっている。


3.株式会社 ドン・キホーテ

同社は関東地方を中心にディスカウントストアを展開する企業である。2016年1月28日、東京労働局は、同社と店舗を担当する支社長や店長ら計8人を、東京都内の店舗で従業員に違法な長時間労働をさせたとして、労基法違反容疑で東京地検に書類送検した。36協定で定めた時間外労働の上限である「3か月で120時間」を超えて、最長415時間45分もの時間外労働をさせた疑い。親会社のドンキホーテホールディングスは、「深くおわび申し上げる。グループ全体で労務管理に関する指導が不足していた」旨のコメントを発表した。2016年11月9日、ドン・キホーテ社は、2014年10月~2015年4月の間、都内3店舗の従業員4人に対し違法に時間外労働をさせたとして東京簡易裁判所から略式命令が出され、罰金50万円を納付した(支社長ら8人は不起訴処分)。

4.株式会社プリントパック

同社は印刷サービスを行う企業である。2010年3月、入社1カ月半の新入社員(当時26歳)が印刷機に巻き込まれて死亡した。全印総連京都地連によれば、当時会社は、この悲惨な死を業務遅延の理由として「機械の不具合」と発表した。同社では過密労働で離職率も高く、自らも月80時間前後の「過労死ライン」と見られる残業を繰り返していた労働者が、2013年に組合(全印総連ユニオン京・プリントパック京都分会)を結成した。これに対し会社は、組合員に対して配転を命じ、残業時間の長さを会社への貢献度と査定して組合員に対し昇給差別や夏季・年末一時金などのボーナスを支給しないなどの扱いをした。同労働組合が京都府労働委員会に救済を申し立てたところ、2016年7月19日、府労委は、同社による労働組合への不当労働行為を認め、賃金や賞与の差額を支払うよう命じた。なお、同社は、この命令を不服として中央労働委員会へ再審査を申し立てている。

5.関西電力株式会社

関西電力株式会社は、近畿地方などを営業区域とする電力会社である。2016年4月20日、高浜原発1、2号機の運転延長申請を担当していた管理職の男性が自殺しているのが見つかった。報道によると、男性は技術系管理職で、原子力規制委員会へ提出する工事計画を担当。日々、規制委の対応に追われ、同年1月には1ヶ月の残業時間が100時間を超えるようになり、2月には200時間、3月以降は都内のホテルに滞在しながら業務に当たるようになっていた。なお、男性は労働時間規制が一部適用除外される「管理監督者」であった。男性が亡くなったのは、審査が「合格」となった当日。男性が担当していた高浜原発1、2号機は、2015年7月7日の期限までに審査手続きを終えなければ廃炉が濃厚だったといわれており、男性に大きな重圧がかかっていたと見られる。労働基準監督署は、男性の自殺は長時間労働による過労が原因だったとして労災と認定した。

6.佐川急便株式会社

同社は主に運送事業を行う企業である。2010年3月、佐川急便に入社した男性は、東北支社仙台店(現南東北支店仙台営業所)で経理などを担当。2011年12月にうつ病の診断を受け、同月26日に自宅において制服姿で首をつって自殺。2012年2月、遺族は仙台労基署に労災の申請をしたが、同年12月には不支給処分となる。その後、訴訟が提起された。2016年10月27日の仙台地裁判決によると、男性は直属の上司から日常的に仕事のミスで注意を受け、自殺する直前にはエアガンで撃たれたり、つばを吐きかけられたりする暴行や嫌がらせを受けていた。SNSにもその旨を投稿、自らのスマートフォンにも「色々頑張ってみたけどやっぱりダメでした。薬を飲んでも、励ましてもらっても、病気の事を訴えても理解してもらえませんでした」と書き残していた。上司はうつ病になり「退職したい」と訴える男性に「そんなの関係ない。迷惑かけられて大変だった」と残務処理を指示していた。判決は一連の行為を「社会通念上認められる範囲を逸脱した暴行または嫌がらせ行為」とし、うつ病発症は業務上のものであると認めた。

7.サトレストランシステムズ株式会社

大阪市中央区に本社を置き、「和食さと」「すし半」「さん天」などの飲食店を全国展開する東証一部上場企業。報道によれば、同社では2008年4月から15年11月までに長時間労働や残業代の未払いなどで、全国の労働基準監督署から18回にわたる指導を受けてきたが、度重なる指導にも関わらず改善が見られなかったことから、2015年12月、大阪労働局の過重労働撲滅特別対策班(かとく)が強制捜査に踏み切った。 また16年9月には、本社と大阪府内の4店の従業員計7人に三六協定を大幅に超過する残業をさせ、さらにその割増賃金の一部が未払いだった労働基準法違反(32条<労働時間>、37条<時間外、休日及び深夜の割増賃金>)の容疑で、法人としての同社のほか、同社の事業推進部長や店長など計5人が大阪地検に書類送検された。 なお同社ではかとくの強制捜査を受け15年12月に調査委員会を発足させており、その結果判明した約650人の従業員に対する総額4億円あまり(2014~15年分。立件された分も含む)の未払賃金も払ったという。

8.宗教法人 仁和寺

京都市右京区にある真言宗御室派の総本山寺院。1994年には世界文化遺産にも登録されている。2013年、仁和寺が境内で運営する宿坊「御室会館」の元料理長の男性(判決時58歳)が、長時間労働により精神疾患を発症したとして、同寺を相手取り慰謝料や未払賃金の支払いを求めて提訴。2016年4月12日、京都地裁は男性の訴えを認め合計約4200万円の支払いを命じた(仁和寺は控訴せず判決確定)。男性は2004年12月に料理人として仁和寺に正規採用され、翌2005年から料理長として調理や献立作成などを担当。しかし、2011年春頃からの時間外労働がほぼ毎月140時間以上で、多い月では240時間以上、年間の勤務日数が356日(うち349日は連続して出勤)という「極めて過酷な長時間労働」(判決文より)を強いられた。男性は2012年8月に抑うつ神経症と診断(2013年7月労災認定)され休職を余儀なくされたが、この間仁和寺は、「料理長は管理監督者である」との理由で、男性に支払うべき時間外手当・休日手当を払っていなかった。

9.ディスグランデ介護株式会社(「茶話本舗」FC企業)

大手デイサービス企業である株式会社日本介護福祉グループが運営する「夜間ケア付き小規模デイサービス」事業である「茶話本舗」のフランチャイズ店舗(ディスグランデ介護株式会社)に労働基準監督署から是正勧告が出された。是正勧告の内容は、茶話本舗で働く女性に対する賃金未払いや休憩をとらせなかったことである。この女性を支援する「介護・保育ユニオン」によれば、未払い賃金はおよそ74万円になるという。 同ユニオンに相談した女性によると、人手が少なく、日勤では10人近い利用者を2人で見ることもあるため、利用者の入浴や排泄があれば、1人で残りの利用者に対応しなければならない。そのため勤務中はまともに休憩を取ることができなかった。夜勤は1人体制で、呼び出しもあるため十分な仮眠を取れず、日中できなかった事務作業を行なっていた。このように、実際には休憩はなかったにもかかわらず毎日1〜2時間ほどが「休憩時間」として労働時間から引かれていた。

10.日本郵便株式会社

同社は郵便事業の運営と郵便局の運営を行う企業である。勤務していた男性(当時41歳)は2011年4月から福岡県飯塚市の郵便局に勤め、6月からうつ病などで休職。12月に販売用の年賀はがきを受け取るため局を訪れた際、駐車場に止めた車内で心疾患のため死亡した。男性の遺族は、死亡したのは上司のパワーハラスメントによるストレスが原因だとして、同社に1億円の損害賠償を求め提訴。2016年10月26日、福岡高裁で判決が言い渡され、死亡とパワハラの因果関係は認めなかったが、裁判所は、局長が同年5月の面談で「いつやめてもらってもいいぐらいだ」と発言したことなどをパワハラと認定し、男性のうつ症状悪化との因果関係を認め、同社に330万円(1審では220万円)の支払いを命じた。郵便職場では、2016年10月に愛知県新城市の郵便局課長の遺族が、部下からのパワハラによる自殺として提訴しているほか、さいたま新都心郵便局ではパワハラ飛び降り自殺として妻が2013年に提訴した事件が和解で決着しているなど、パワハラに関する問題が多数指摘されている。

第4回ブラック企業大賞2015

●ブラック企業大賞: 株式会社セブンイレブンジャパン

●WEB投票賞 : 株式会社引越社関東(アリさんマークの引越社)

●ブラックバイト賞 : 株式会社明光ネットワークジャパン(明光義塾)

●特別賞 : 暁産業株式会社

●アリ得ないで賞 : 株式会社引越社関東(アリさんマークの引越社)

1. 株式会社セブン-イレブン・ジャパン 

セブン-イレブン・ジャパン(本社東京都千代田区、鈴木敏文代表取締役会長兼CEO、井阪隆一代表取締役社長兼COO)は、日本国内に1万6,319店(2015年度)を展開、国内チェーン全店で4兆円超を売り上げる日本最大手のコンビニエンスストアチェーンである。2013年8月、同社のフランチャイズに加盟する店主4人が、販売期限が近い弁当などを値下げして売る「見切り販売」の権利を同社から妨害されたとして損害賠償を請求していた裁判で、東京高裁は妨害の事実を認め、セブンイレブン側に計1140万円の支払いを命令。14年10月に最高裁が本部、加盟店双方の上告を棄却したことで判決確定した。セブン本部による見切り販売妨害については09年に公正取引委員会が、独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」に当たると認定し排除命令を出していた。「見切り販売」に代表されるセブン本部の不当な経営圧迫に対し、加盟店主らは09年に「コンビニ加盟店ユニオン」を結成して団体交渉を要求。同社は「加盟店主は労働者ではない」と主張し団交拒否してきたが、14年3月には岡山県労働委員会が加盟店主らの労働組合法上の労働者性を認め、救済命令を出している。昨今、学生アルバイトを正社員並みに、しかも学生生活に支障きたすほどの低待遇で使役する「ブラックバイト」が社会問題化しており、コンビニバイトはその代表的な業種である。コンビニ本部各社はこうした問題の責任は個々の加盟店店主らにあるとして自らの責任を否定してきたが、業界にブラックバイトが蔓延るのは、本部が加盟店主らから過酷な搾取を行い、そのしわ寄せが学生アルバイトに及んだ結果であるとも言える。こうした構造はコンビニ各社で共通するものだが、セブンイレブンは業界の圧倒的強者であるほか、日本にコンビニフランチャイズを定着させた先駆者でもあり、業界内における責任も役割も大きく、そして、前記事件がコンビニ業界の構造を示す象徴的な事件であるといえることからノミネートした。 

 2.  暁産業株式会社
 暁産業(荒木伸男代表取締役社長)は消防自動車、消防用設備などの販売と保守点検を行う福井県福井市の企業である。同社ホームページによれば会社設立は1951年、従業員数は男性33名、女性11名の44名。 2010年12月、同社の保守点検部門で働いていた当時19歳の男性社員が、自宅で首をつり亡くなった。男性は高校在学中だった同年2月に同社でアルバイトとして働き始め、卒業後の4月に正社員として入社。 だが入社後は、直属の上司(リーダー)から「辞めればいい」「死んでしまえばいい」「相手するだけ時間の無駄」「もう直らないのなら、この世から消えてしまえ」などの暴言を執拗に投げつけられ、11月下旬には鬱状態に陥っていたと見られている。これらの暴言を含め、男性はリーダーからの指導内容を克明にメモに取るよう命じられており、この記録を証拠に福井労働基準監督署は12年7月、男性の自殺原因は上司からのパワハラであると認定した。 その後、男性の遺族は暁産業と上司らを相手取り、福井地裁に約1億1,100万円の損害賠償を求め提訴。会社側は全面的に否認していたが、同地裁は2014年11月28日、「典型的なパワーハラスメント」であるとして、会社と直属の上司に約7,200万円の支払いを命じた(15年9月16日に双方の控訴を高裁が棄却し、判決確定)。 暁産業は今回のノミネート企業中、事業規模からいえば最も小さい会社だが、パワハラ内容の陰湿性に加え未成年の労働者を自殺に追い込んだことの異常性、さらに悪質な違法行為の多くは無名の中小企業で起きていることも考慮し、ノミネートすることにした。

3. 株式会社フジオフードシステム
フジオフードシステムは、大阪や京都を中心に、「まいどおおきに食堂」や「串家物語」などの飲食店や居酒屋を運営する。同社は従業員の労働時間を改ざんし、長時間労働をさせて残業代を支払わなかったとして、今年8月、法人と当該店舗の店長など16名が労働局により書類送検された。今年4月、厚生労働省がブラック企業対策として大阪と東京に「過重労働撲滅特別対策班」(通称 かとく)を設置して以来、大阪でははじめての書類送検となる。各紙報道によると、従業員19人に対して月54〜133時間もの時間外労働をさせたにもかかわらず、割増賃金を払わなかった。またある店長は労働時間を改ざんしたことを「空気感でやった」などと話し、2人の従業員に関しては残業代も未払いだったとされている。従業員のなかには、長時間労働が原因で精神疾患をわずらい、仕事を辞めた人もいるという。フジオフードシステムは、過去にも労働局からの是正指導があったにもかかわらず、改善が見られないとして今回の書類送検にいたった。厚労省がブラック企業対策に乗り出して以来、大阪で初の書類送検、是正指導を受けても繰り返し長時間労働や割増賃金の不払いを続けていたため、ノミネートした。

 4. 株式会社エービーシー・マート
エービーシー・マートは、「ABCマート」名の店舗を全国で約800店を運営し、靴の専門店である。ABCマートは、会社と労働者間で合意する36協定で定めた残業時間(79時間)以上の月97〜112時間を残業させたとして、労働基準法違反の疑いで、今年7月、書類送検された。今年4月、厚生労働省がブラック企業対策として東京と大阪に「過重労働撲滅特別対策班」(通称 かとく)を設置して以来、はじめて書類送検されたケースである。同社は、労働局から繰り返し是正指導されていたが、改善が見られなかったという。7月2日発表のプレスリリースでは、再発防止のために労務管理システムなどで「全店舗でこのような問題が生じない体制を確立して」いると発表している。各紙報道によると、現場は恒常的に人手不足。従業員を減らす一方、働く人には長時間労働をしいているという。なお、ABCマートは最高利益を16年連続で更新している。厚労省がブラック企業対策に乗り出して以来、初の書類送検事案であり、36協定違反という極めて基本的な法規範に対する違法行為であることから、ノミネートした。

5. 株式会社明光ネットワークジャパン(明光義塾)
 明光ネットワークジャパンは、個別指導塾最大手・明光義塾を運営する企業であり、この10数年で塾・予備校産業の大きな部分を占めるようになった個別指導塾業界を牽引してきたパイオニアである。明光義塾は全国で教室数2137教室、生徒数13万6890人を数える(うち同社の直営教室は222教室、フランチャイズ教室は1915教室。2015年8月時点)。 個別指導塾では、講師アルバイトに対して、授業以外の業務に賃金が違法に払われない「コマ給」問題が蔓延しており、「ブラックバイト」の象徴となっている。明光ネットワークジャパンに対しても、ブラックバイトユニオン・個別指導塾ユニオンが、同社およびフランチャイズ運営会社の労働条件改善を求め、団体交渉を進めている。 2015年10月には、同社直営の宮城県内の教室に勤務する20代の学生講師アルバイトの申告にもとづき、賃金未払い(労基法24条違反)で仙台労働基準監督署から是正勧告が出された。同社では、授業に対する「コマ給」と、授業外業務に対して1日30分間分の手当が支払われていたが、授業の準備と生徒の見送り、報告書の記入、片付けなどで1時間を超える未払い労働が恒常的にあったという。同学生は「生徒のための仕事なのに賃金が払われず、納得いかなかった」と語っている。 また全国の明光義塾のフランチャイズ教室でも、今年8月には茨城、10月には埼玉、東京、大阪で、労基署の是正勧告が出されている。 明光ネットワークジャパンが運営する明光義塾は個別指導塾最大手であり、かつ、子どもに対する教育を行うことを業とするものであって、より高い遵法意識が求められるにもかかわらず、全国各地で労働局から是正勧告が出されていることから、ノミネートした。

6. 株式会社引越社関東
引越社関東は、「アリさんマークの引越社」として全国で営業展開する引越による荷物の運搬等を業とする企業である。引越社関東のほか、株式会社引越社、株式会社引越社関西などのグループ会社で事業を行っている。従業員数はグループ全体で3,965人(平成26年5月末時点)、グループ総売上は273億円(平成25年度)である。引越社関東は、同社従業員で元は営業職であったA氏をシュレッダー係に配転するなどしていたところ、2015年8月、突如としてA氏を懲戒解雇し、その懲戒解雇の事由を「罪状」などと記載し、A氏の顔写真を入れた書類(罪状ペーパー)を作成、これをグループ内の全国の店舗に掲示した。さらに、同社は同様の文面を従業員に送る社内報にも掲載し、これをグループ会社に所属従業員に送付した。A氏が懲戒解雇の無効を訴えて東京地裁に仮処分を申立てたところ、同社はすぐに解雇を撤回し、復職を命じた。ところが、A氏が出社すると「罪状ペーパー」とされた書類が社内に多数貼り出されており、さらにはA氏の顔写真と「北朝鮮人は帰れ」などの記載のある書類までも貼り出されていた。A氏の所属する労働組合(プレカリアートユニオン)の抗議行動に対しては、同社幹部らが同労組の関係者に対し、「おい、こらぁ!」「なにしとんねん、われえ!」「言うてみい、こらぁ!」などと尋常ではない迫り方をするなどした。なお、この場面をおさめた動画が話題となり、you tubeで190万回以上再生されるに至った(10月26日時点)。同社に対しては、A氏からシュレッダー係への配転無効の裁判が起こされているほか、同社が引越荷物の破損等に対する損害を従業員に全て負わせて給与から天引きしていたことから、全国各地でこれを取り戻す裁判が起こされている。他にも、同社は、採用基準に人種差別、部落差別と疑われる基準を持っていることがA氏や元従業員らから告発されている。同社は「アリさんマークの引越社」として赤井英和氏を起用したテレビCMも多く行っている有名企業であるにもかかわらず、上記の通り労働者や労組に対する激しい対応が明らかになったため、ノミネートするものである。

第3回ブラック企業大賞2014

●ブラック企業大賞: 株式会社ヤマダ電機

●WEB投票賞 :  株式会社ヤマダ電機

●業界賞
   【アニメ業界】株式会社 A-1 Pictures
 【エステ業界】株式会社 不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)

●特別賞 : 東京都議会

●要努力賞 : 株式会社ゼンショーホールディングス(すき家)

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★WEB投票+会場投票の結果★

 1位 ヤマダ電機     5256票
 2位 東京都議会    3207票
 3位 タマホーム     2439票
 4位 リコー       2314票
 5位 秋田書店     1420票
 6位 A-1 Pictures 1130票
 7位 たかの友梨ビューティクリニック 1049票
 8位 大庄       837票
 9位 JR西日本  679票
10位 ゼンショーホールディングス 570票
11位 正智深谷高校&イスト 401票

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1.    株式会社 大庄(居酒屋チェーン「日本海庄や」)

株式会社 大庄は東証一部上場企業であり、従業員3千人規模、「庄や」「やるき茶屋」「日本海庄や」など全国に約860店舗の居酒屋チェーンを展開している。「日本海庄や」では、2007年に24歳の若者が過労死している。日本海庄やで働いていた吹上元康さんは2007年4月10日、新入社員として滋賀県大津市の「日本海庄や」石山駅前店の調理場に配属され、わずか4カ月後の8月11日未明、急性心不全により自宅で死亡した。大津労働基準監督署が2008年12月、元康さんの死亡を過労死と認定したことを受け、元康さんの両親は、損害賠償を求めて株式会社大庄と平辰(たいら・たつ)代表取締役ら4人を京都地裁に提訴。2013年5月の判決では、会社と役員4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。大庄は初任給に過労死の労災認定基準(過労死ライン)である月80時間分の残業代を組み込んでおり、裁判では元康さんの死亡前4カ月間の総労働時間は1カ月平均276時間で、時間外労働は平均112時間だったと認定された。そのような過重労働を前提とする会社の労務管理について、裁判官は「労働者の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制をとっていたものとはいえない」とし、元康さんが過労死したのは取締役らが「悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていた」ことが原因と結論付け、役員個人の賠償責任を認定した。

2.    JR西日本

(西日本旅客鉄道株式会社)JR西日本では2012年、28歳の若者(Aさん)が過労自死している。Aさんは大学院修了後の2009年に総合職としてJR西日本に入社、2011年6月から兵庫県尼崎市の工事事務所で信号システムの保安業務などを担当していた。そこでは昼夜連続勤務や休日勤務を繰り返し、同年12月以降は残業時間が毎月100時間を超過するようになった。自死直前の2012年9月には残業時間は月160時間を超え、その他の月でも最長で250時間を上回る残業をしていたという。またAさんの担当していた保安業務は、乗客の安全のためミスが許されない責任の重い仕事であり、ただでさえ過酷な長時間労働をしているAさんを精神的にも肉体的に追い込んでいく要因となった。このような過重労働の中でAさんは鬱病を発症し、2012年10月、マンションの14階から身を投げ自死した。両親と妻は尼崎労働基準監督署に労災申請し、2013年8月、労災認定された。同年9月、遺族は会社を相手取り、慰謝料や逸失利益など総額1億9144万円の支払いを求め大阪地裁に提訴。原告側は、タイムカードなどで労働時間を適正に把握しなかったなどとして、同社に注意義務違反や雇用契約上の安全配慮義務違反があったと訴えている。JR西日本側は 第1回口頭弁論で、長時間労働と自殺との因果関係を認める一方、損害額について争う姿勢を示している。


3.    株式会社 ヤマダ電機

株式会社ヤマダ電機は、2005年2月に家電量販店として日本で初めて売上1兆円を達成。2014年3月期には連結売上1兆8939億円、同純利益186億円を計上し、3万2671人(13年3月期時点)の従業員を抱える、日本最大の家電販売業者である。 2007年9月19日午前2時頃、同社の郊外型店舗「テックランド」柏崎店に勤務していた当時23歳の男性社員(Aさん)が、過労の末に社宅で首を吊り自殺した。 2004年12月に契約社員としてヤマダ電機に入社したAさんは、亡くなる1ヶ月前の2007年8月16日に正社員に登用。同時に9月21日に新規開店予定だった「テックランド」柏崎店のオーディオ売り場の「フロア長」になるよう命じられ、23歳で正社員未経験ながらいきなり「管理職」として扱われた。ヤマダ電機では8月16日以降、Aさんに出勤時刻は打刻させていたものの、退勤時刻を打刻させていなかった。 2011年6月、Aさんの自殺は労災認定された。長岡労働基準監督署は、関係者の証言や警備記録などから男性が自殺する直前1ヶ月間で少なくとも106時間21分の残業をしていたと結論。特に亡くなる前の1週間の時間外労働は47時間30分と極度に多いことが認められている。 遺族はヤマダ電機側に安全配慮義務違反があったとして、2013年12月11日に前橋地裁に損害賠償などを求めて提訴しているが、ヤマダ電機側は労基署の認定は事実誤認に基づくとして、訴えを全面的に否定している。 なおヤマダ電機では2004年4月上旬にも、当時29歳の契約社員が上司からの罵倒の末に自殺に追いやられたとして、2005年1月に遺族から損害賠償請求を提訴されている。さらに2013年7月にはテックランド船引店の店長が営業不振に苦しんだあげく、架空売上を計上して自殺に追い込まれたとの報道(「週刊文春」13年12月19日号)もある。「週刊文春」が入手したヤマダ電機の内部資料によると、2013年9月7日以降の4週間で、残業時間が40時間を超えた従業員は全国607店舗で1819人。さらに46人の店長が、厚生労働省の定めた「過労死ライン」(残業時間が月平均80時間)を超えているという。

4.    株式会社 A-1 Pictures 

「A―1 Pictures」は東京都杉並区のアニメーション制作会社であり、ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下の映像企画・製作会社アニプレックスの100%子会社として2005年5月に設立された。これまでに『おおきく振りかぶって』『黒執事』『かんなぎ』『宇宙兄弟』『聖☆おにいさん』などの作品を制作している。2010年10月、当時28歳の男性社員Aさんが都内の自宅アパートで自殺した。各紙報道によれば、Aさんは2006年から2009年12月まで同社の正社員として勤務し、在職中は『おおきく振りかぶって』『かんなぎ』などの制作進行を担当。同社にはタイムカードなどで労働時間を管理する仕組みはなかったが、Aさんが退職後に通院していた医療施設のカルテには、「月600時間労働」などの記載があり、残業時間は多い時で月344時間に上った。7日間連続で会社に泊まったり、3カ月休みがなかったこともあったというが、残業代が支払われた形跡はなかったという。Aさんの自殺は2014年4月11日に新宿労働基準監督署が労災認定。同署は男性が在職中に鬱病を発症しており、発症の2~4カ月前に少なくとも月100時間を超える残業があったと認定している。アニメ制作は多くの若者が志す人気職種となっている一方、日本アニメーター・演出協会が2008年に728人を対象に行なった調査では、アニメーターの賃金は年収200万円未満が9割で、労働時間管理がなされず、社会保険も未加入という事例が多数あったとされる。「好きな仕事をしたい」という若者の心理につけ込むことで、劣悪な労働を甘受させる「やりがい搾取」の象徴的事例として、今回ノミネートをした。

5.    タマホーム株式会社

東京都港区に本社を置くタマホームは、「ローコスト住宅」を主力商品として扱うハウスメーカーである。設立は1998年と後発ながら、「坪単価25万円」を謳った割安感と、SMAPの木村拓哉など大物タレントを起用する広告戦略で受注を増やし、2013年3月には早くも東証一部上場を果たしている。 一方で「注文住宅着工件数2年連続日本一」との広告が景品表示法の禁じる「優良誤認」に当たるとして2007年3月に公正取引委員会から排除命令を受けるなど、これまでにたびたび不祥事も発覚している。 2011年10月12日、同社の男性社員Aさん(当時47歳)が過労により亡くなり、2012年8月にいわき労働基準監督署が労災と認定した。男性は2007年7月3日にタマホームに入社し、2010年からは、いわき営業所で営業職の主任を担当していた。だが2011年3月の東日本大震災をきっかけにいわき市内の住宅需要が急増してからは各営業マンの負担も増加。後にいわき労働基準監督署がパソコンのログイン記録などを元に認定したところでは、男性が亡くなる前半年間の残業時間は最も短い月で83時間、最長で103時間に及んでいた。 ただし同署の調査復命書は、タマホーム社員たちがあらかじめ許容されている残業時間を超えて働かざるをえない(サービス残業の形跡を消す)ために意図的なログオフ忘れ、あるいは社員間でのIDの貸し借りを行っていた可能性を指摘している。亡くなる半年前の残業時間について、男性の遺族は労基署の認定を上回る144〜186時間であると主張している。 いずれにしても過労死ラインを大幅に上回る残業が続いていたAさんは、2011年8月頃から身体の不調を訴えるようになった。そして10月11日、業務扱いとして参加が義務づけられていたタマホームの支店対抗ソフトボール大会に出場後、同僚と宿泊したホテルで急性心筋梗塞で亡くなっているのが発見された。 遺族は労災認定を受け、2013年9月6日にタマホームを相手取り、約1億400万円の損害賠償などを求め東京地裁に提訴しているが、タマホーム側は原告の求めを全て棄却するよう求めている。

6.    東京都議会

2014年6月18日、東京都議会で、女性の妊娠や出産においての都の支援対策について質問した女性議員に対して、「早く結婚した方がいいんじゃないか」等のヤジが飛んだ。これらのヤジは発言自体が女性蔑視にあたることは言うまでもない。さらに、ヤジを飛ばしたことを認めた男性議員の記者会見では、「・・・少子化、晩婚化の中で早く結婚していただきたいと思い・・・」などと言葉を変えただけで、結婚や出産が個人の自由だという認識をまったく欠く弁明を述べ、問題の本質を理解できていないことが露呈した。このヤジが飛んだ議会中には、このヤジの他にも女性蔑視にあたると思われるヤジが複数飛んでいる。しかし、前記の都議以外には発言当事者が名乗りでず、音声鑑識などを用いて発言者探す事態にまで発展した。他の発言をした議員たちは、今も口をつぐんだままである。言うまでもなく、議会は議員にとっての働く場所である。ところが、「慣習」だとも言われる議会中の性差別に特化したヤジは、都議会のみならず多くの議会で発生していることが、この問題が発覚した後に次々明らかになった。今回発されたヤジは、環境型セクハラに該当するものである。環境型セクハラとは、職場での性的な言動によって、労働者の就業環境が不快なものとなり、仕事をする上で支障が出ることを指す。今回の事件で、都議会におけるセクハラに対する認識の甘さが白日の下にさらされたが、おざなりの決議だけをあげて幕引きを図ろうとしたが、問題は何ら解決されないまま放置されている。また今回の議会では、ヤジの直後に議長から「不適切発言を制止」するということもなされなかった。都議と都議会は雇用の関係ではないが、このような内容のヤジがセクシャルハラスメントに該当し、許されない発言であることを雇用の現場でも再確認する意味を込め、こうしたヤジが飛んでも自浄能力を何ら発揮することなく幕引きを図ろうとした都議会を特別にノミネートした。

7.    株式会社リコー

株式会社リコーは、資本金1億円超、連結売上高は2兆2,000億円(2014年3月期)を超え、東証1部に上場する、日本有数の大企業である。同社は2011年5月、「人員リソース改革」と称し、1万5000人の人事異動と1万人の人員削減を行う計画を明らかにし、同年6月には1600人程度の希望退職者募集を行うことも発表した。そして、同年7月には、特定の対象者に対して「希望退職制度」に応募させようと上司による退職勧奨が始まった。Aさんは、技術畑を歩んで来た労働者でリコー内ではスペシャリスト2級に位置づけられていた。社内での表彰も複数回あり、登録特許も数百件あるほどの専門性を有する労働者であった。ところが、Aさんは、この人員削減の対象とされ、上司から、複数回にわたり退職勧奨を受けた。上司は、会社に残るのであれば意に沿わない仕事になるだろう、として、生産系の作業的な仕事、物流系の倉庫での仕事などを例示したが、Aさんは希望退職に応じる意思のないことを示した。同年8月、リコーはAさんを子会社に出向することを命じた。出向先は物流系の子会社であり、Aさんは立ち仕事で単純作業(商品の荷受業務や開梱業務等)に従事した。Aさんには個人机もパソコンも支給されなかった。Aさんらは東京管理職ユニオンに加入し、団体交渉を行い、その後、Aさんと同様の扱いを受けたBさんとともに出向命令の無効の確認を求めて東京地裁に提訴した。2013年11月12日、判決が下された。判決では、Aさんらへの出向命令は、Aさんらを選定した点において、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けており、また、出向先での業務はAさんらのキャリアや年齢に配慮されておらず身体的・精神的に負担が大きいものとした。そして、本件出向命令はAさんらが自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであるとして、人事権の濫用として出向命令を無効とした。

8.    株式会社 秋田書店

秋田書店は、漫画雑誌『少年チャンピオン』などの発行で知られる出版社である。同社では漫画雑誌等に景品を掲載し、その景品を欲する読者を募り、応募数が景品数より多数の場合は抽選により選ばれた読者へ景品を送るという、いわゆる「読者プレゼント」をしばしば行っていた。ところが、秋田書店では、発表していた当選者数よりも大幅に少ない景品しか用意していなかった。2007年に大卒後に秋田書店へ入社し、『ミステリーボニータ』編集部に配属され、編集に関わった女性従業員Aさんは、同誌の読者プレゼント欄の担当となった。Aさんは景品が明示されている数より少なくしか用意されていないことに驚き、「不正は、やめるべきでは」と繰り返し上司に訴えた。ところが、秋田書店はプレゼント偽装を是正せず、この女性従業員に対して業務指示を継続した。Aさんはその葛藤の中で精神疾患を患い休職を余儀なくされた。このような状況のAさんに対し、秋田書店は「読者プレゼントを読者に送らずに着服した」としてAさんを懲戒解雇した。Aさんは消費者庁に対し情報提供を行うと、2013年8月20日、消費者庁は秋田書店に対して「景品表示法違反(有利誤認)」で措置命令を発出した。懲戒解雇の違法性をめぐっては、Aさんは首都圏青年ユニオンに加入し、東京地裁で同社と争っている。同社は消費者庁から措置命令を受けたにもかかわらず、Aさんへの懲戒解雇は有効であるとの主張を行っている。

9.    学校法人智香寺学園 正智深谷高等学校 & 株式会社 イスト

埼玉県にある正智深谷高校で、高校の非常勤講師が違法な偽装請負で働かされていた。20歳代の女性非常勤講師Aさんは、2010年4月1日から2年間、正智深谷高校と業務委託関係にある人材派遣会社イストと個人委託契約を結び、社会科の授業を担当した。1コマ9000円の契約で、1カ月16コマの授業を行い、月額14万4000円を受け取っていたが、他にも会議への出席や生徒への補講を求められるなどしていた。Aさんは授業の進行やテストの内容などについて、学校の専任教員と打ち合わせをして進めており、指揮命令は学校から受けていた。このように、学校→イスト→労働者という多重業務委託関係にあり、しかも学校から指揮命令を受けていたため、いわゆる偽装請負でもあった。そしてイストとの関係も業務委託契約なので、社会保険・雇用保険も未加入であった。 厚生労働省東京労働局は、2012年9月14日、業務委託契約を結んでいた講師に直接指示を出して働かせていたのは労働者派遣法の規制を潜脱する「偽装請負」に当たるとして、正智深谷高校と人材派遣会社イストに是正指導を出した。Aさんは正智深谷高校労働組合に加入し、埼玉地裁熊谷支部で雇用関係について争っている。 なお付論すると、常識では考えにくいことだが、現行法においては学校の先生が派遣であることは違法ではない。

10.株式会社 不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)

 「たかの友梨」は、1978年の創業以降全国124店舗を展開、従業員1047人(2013年9月時点)、売上高160億円(同月期)のリーディングカンパニーである。代表取締役の髙野友梨氏は、「カリスマ美容家」として、テレビのバラエティー番組等に数多く出演している。
 しかし、現場で働く従業員の労働環境は過酷なものである。従業員の多くが、1日に12時間程度働かされ、その間休憩をほとんど取れていない。また、休日も規定通りに休めず、有給休暇も取得できない。そうした過重労働にもかかわらず、残業代・休日手当は適切に払われていなかった。
2014年8月、仙台労働基準監督署は、たかの友梨仙台店に対し、タイムカードの記録と警備記録のズレを指摘し、残業代未払い分の精算をすることや、適切に休憩を取れる措置を取ること、有給休暇を労働者の希望通りに取らせることといった、行政指導・勧告を出している。
 ところが、労働組合の公表したところによれば、社長の髙野友梨氏は、労基署に通報した従業員を長時間にわたり「労働基準法にぴったりそろったら、絶対成り立たない。潰れるよ、うち。それで困らない?」などと詰問し、その従業員は精神的ショックで出勤ができなくなってしまったとのことである。しかし、会社はその事実を認めようとしていない。
 今回の労基署による行政指導がなされた事実などが明らかになったので、緊急にノミネートした。

11.株式会社ゼンショーホールディングス(すき家)

 株式会社ゼンショーホールディングスは、日本最大の牛丼チェーン「すき家」を経営する株式会社ゼンショーを含むホールディング企業である。すでに、株式会社ゼンショーは過去2012年度ブラック企業大賞の「ありえないで賞」を受賞している。
 2014年7月31日、ゼンショーホールディングスに宛てた「『すき家』の労働環境改善に関する第三者委員会」の調査報告書が公表された。この「第三者委員会報告書」の内容は、24時間以上の勤務を何回も繰り返す、月の労働時間500時間など、壮絶というべき記述の連続である。これら労働法規違反のオンパレードは、同社がみずからを「ブラック企業である」と言ったに等しい。今後、ブラック企業研究を志す人たちの参照すべき基本資料がゼンショーホールディングスによって提供されたと言っていい。
 この「報告書」発表後、多くのマスメディアも含めて、すき家の労働条件が本当に改善されるのかを注目している。特に、すき家における最悪の労働条件である、深夜の一人勤務(通称:ワンオペ)をなくすのかどうか。ゼンショーホールディングスは、今年の9月末までに全店舗でのワンオペ廃止を表明しているが、ゼンショーは以前にもワンオペ廃止方針を反故にしていることもあり、注目が集
まっている。
「第三者委員会報告書」の公表を受け、その内容の過酷さ・壮絶さからすれば、ブラック企業として十分に要件を充たすことから、緊急にノミネートするものである。

第2回ブラック企業大賞2013

【大賞】 ※一般投票賞とのダブル受賞
ワタミフードサービス株式会社

【業界賞】
アパレル業界:クロスカンパニー株式会社

【特別賞】
国立大学法人 東北大学

【教育的指導賞】
株式会社ベネッセコーポレーション

1.ワタミフードサービス株式会社
居酒屋チェーンや介護事業を全国展開している同社では、2008 年6 月に正社員だった森美菜さん(当時26 歳)が、厚生労働省が定める過労死ライン(月80 時間の残業)をはるかに上回る月141 時間の残業を強いられ、わずか入社2 カ月で精神疾患と過労自殺に追い込まれた。昨年2 月に労災認定されたあとも、同社は責任を認めることなく、創業者である渡辺美樹会長は遺族からの求めに応じず、いまだに面談も謝罪も拒否している。 亡くなった森美菜さんは連続7 日間の深夜労働、午後3 時から午前3 時半の閉店まで12 時間働かされた。閉店後も遠く離れた社宅には始発電車まで帰ることもできず、休憩室のない店舗で待つしかなかった。ほかにも休憩時間が取れない、休日出勤、強制的なボランティア活動、早朝研修、給料から天引きで買わされた渡辺会長らの著書の感想文提出などで疲労は蓄積した。残業に関する労使協定(36 協定)も店長が指名したアルバイトに署名させるという違法行為が労働基準監督署から是正指導を受けた。
遺族と支援する労働組合は、森美菜さんの労働実態と原因の解明のために経営者ら責任ある立場の人との面談を同社に求め続けているが、同社は顧問弁護士のみとの面談を除いて応じる姿勢を見せていない。逆に同社は昨年11 月、遺族を相手取って同社が支払うべき損害賠償金の確定を趣旨とした民事調停を申し立てた。
報道によると、同社が全社員に配布している「理念集」という冊子には「365 日24 時間死ぬまで働け」と書かれているという(『週刊文春』2013 年6 月13 日号)。

2.株式会社クロスカンパニー
人気女優の宮崎あおいをCM起用したメインブランド “Earth Music&Ecology”で若い女性に人気の企業であり、また、店舗従業員も含めて、全員が正社員として雇用されているとして一部で「女性社員の働きやすい企業」として宣伝されている企業だが、その労務管理には、大きな問題があった。
2011年2月9日、立川労働基準監督署は、入社1年目の女性正社員(2009年10月死亡)が極度の過労・ストレスにより死亡したとして労働災害として認定している。この女性社員は、大学を卒業した年である2009年4月にクロスカンパニーに入社。同年9月に都内の店舗の店舗責任者(店長)に任命された。店長就任以来、日々の販売の他に、シフト・販売促進プランの入力、レイアウト変更、メールによる売り上げ日報・報告書の作成、本社のある岡山での会議出席などに追われた。スタッフが欠勤連絡のために、深夜0時や早朝5時に携帯電話に送ってくるメールにも自宅で対応しなければならなかった。勤務シフトは通常3~5人で組まれていたが、相次いで3人退職した後も会社は人員を補充しなかった。売り上げ目標達成に対する上司からの追及は厳しく、マネージャーから店長に「売上げ未達成なのによく帰れるわねぇ」という内容のメールが送られてきた。亡くなった女性のノートには、本社のある岡山での会議で「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」旨の指示があったことが記されている。この女性は、働いても働いても売り上げ目標が達成できないので、2009年9月には、売上額を上げるために自分で計5万円以上も自社商品を購入していた。彼女の2009年9月の時間外労働は、労働基準監督署の認定した時間だけでも少
なくとも111時間以上だった。そして、極度の疲労・ストレスの中、2009年10月に亡くなった。

3.株式会社ベネッセコーポレーション
2009年、人事を担当する人財部のなかに「人財部付」という部署が新設された。ここに配属された女性社員は、「あなたたちには問題があります。受け入れ先を獲得する活動をしなさい」と上司から指示された。電話に出ないように指示され、名刺も持たされなかった。社内ネットにもアクセスさせなかった。自分を受け入れてくれる部署をさがす「社内就職活動」をしながら単純作業をするように命じられていた。また、他部署をまわって雑用をもらってくることも命じられた。仕事の大半は、段ボール箱の片づけや懐中電灯へのテプラ貼りなどの単純作業だった。「再教育」は名ばかりで、単純作業をやらせることによって、社内には仕事がなく、退職以外には方法がないと思い込ませる場として設置されていた。ベネッセ側は、「『人財部付』は従業員の配属先を決めるまでの一時的な配属先。退職を勧めるための場ではない」と主張していた。
2012年8月、東京地裁立川支部判決(中山典子裁判官)は、人財部付が「実質的な退職勧奨の場となっていた疑いが強く、違法な制度」と判断し、この部署への異動も「人事権の裁量の範囲を逸脱したもの」として「無効」を言い渡している。

4.株式会社サン・チャレンジ(ステーキのくいしんぼ)
2010年11月8日午前1時ごろ、株式会社サン・チャレンジ(本社東京都渋谷区 上田英貴代表取締役)が運営するレストランチェーン「ステーキのくいしんぼ」渋谷センター街店の店長だった男性(当時24歳)が、店舗が入居するビルの非常階段の踊り場で首吊り自殺した。男性の自殺は、2012年3月に渋谷労基署が過労によるものと認定。同署が認定したところでは、男性が亡くなる前8ヶ月間(4月1日から11月7日)の残業時間は最も少ない月で162時間30分。最も多い月で、227時間30分に達していた。またこの間に男性が取得できた休日はわずか2日のみであり、亡くなった当日まで連続90日勤務していた。
これほどの長時間労働をしながら、男性は名ばかりの「管理監督者」として扱われ、残業代、ボーナスも支給されていなかった。また、やはり渋谷労基署が事実として認定した内容によれば、男性上司から「ひどい嫌がらせやいじめ、または暴行」を受けていた。「業務の指導の範疇を超えた、人格否定または罵倒する発言」が執拗にあったほか、「時には頭を殴るなどの暴行も行われていた」という。

5.株式会社 王将フードサービス(餃子の王将)
2013 年2 月5 日、「餃子の王将」で働いている25 歳の男性が、王将フードサービスを相手取り損害賠償を求める裁判を起こした。男性ははじめアルバイトとして王将で働き始め、10 ヶ月後に正社員として登用される。京都府内の店舗で調理などの業務を担当していたが、長時間労働のためにうつ病を発症し、11 年4 月から休職を余儀無くされている。うつ病を発症する直前の6 ヶ月の時間外労働は平均して月に約135 時間だった。男性のうつ病は、労災として認定されている。餃子の王将では労働時間管理をコンピュータで行っており、1 日10 時間を超える労働時間は入力できない仕組みになっている。このように、組織的に残業代の不払いを行っていたことも明らかとなった。原告の男性は、マスコミに対して「何やと思ってんねやろう、人を」とコメントしている。また、王将フードサービスは、過酷な新人研修についても度々報じられている。逃げ場の無い合宿形式で行われる研修では、「2 メートルでも瞬間移動」などの指導に始まり、「王将五訓」の暗唱や王将体操などをさせられる。一連の研修は、「人権」の考え方を「ペスト菌」のようなものだと主張する染谷和巳氏の経営するアイウィルが請け負っており、パワハラとみなされてもおかしくない状況が延々と続く。

6.西濃運輸株式会社
岐阜県に本社を構え、「カンガルーの西濃」として知られる運送大手の西濃運輸。神奈川県内の支店で事務職をしていた23 歳の男性が、2010 年12 月31 日にキャンプ場で硫化水素を発生させて自殺した。「毎日12 時間以上働かせ、サービス残業を強要した」などと遺書に綴っていた。
男性は2007 年3 月に入社し、荷物管理やクレーム対応などを担当していたが、タイムカードを実際の帰宅より早い時間に押させられて恒常的にサービス残業を強制されてうつ病を発症。亡くなった月の残業時間は98 時間だった。
西濃運輸の過労死事件が特に悪質な点は、2009 年11 月以降、三度にわたり男性が退職を申し出ているにもかかわらず、会社側がそれを拒否していたところにある。一度ならず三度にまでわたり退職を拒否し、一年以上仕事に縛り続けたのであるが、もし退職できていれば、男性は命を落とさなくて済んだかもしれない。
その後、労働基準監督署で彼の死は労働災害として認定されたが、遺族に対する真摯な反省などもないため、男性の両親は2012 年12 月8 日に同社に対して慰謝料や時間外労働の未払い賃金など約8100万円の損害賠償を求める裁判を横浜地裁に提訴している。報道によれば、男性の母親は、「会社側はサービス残業の実態を認めず、反省していない」「改善して墓前で謝ってほしい」などと話している。

7.株式会社東急ハンズ
生活雑貨の大手量販店として有名な「東急ハンズ」では、バレンタインデー商戦の裏で30 歳の男性が命を落としている。男性は、1997 年に東急ハンズに入社し、1999 年から心斎橋店(大阪市中央区)の台所用品売り場を担当するようになった。亡くなる直前には、チームリーダーを務め、7000 点の商品の仕入れから販売までを管理しながらアシスタント3 名の指導も担当していた。亡くなる直前の2 ヶ月間はバレンタイン商戦などの繁忙期で、時間外労働は平均して月に約90 時間を数えた。そして、2004 年3 月、帰宅後に「しんどい、もう限界や」と話した後、心臓に異常をきたして就寝中に突然死した。
2013 年3 月13 日、神戸地裁で遺族が東急ハンズに対して損害賠償を求めた訴訟の判決が下り、東急ハンズは約7800 万円の支払いを命じられる。長井浩一裁判長はは、長時間労働からくる睡眠不足で心身が不調をきたしていたことにくわえて上司から怒鳴られるなどの精神的ストレスがあったことを指摘し、男性の死を過労死と認めた。また、「残業は指示していない」と主張する会社に対して、「会社側が設定した残業制限時間では、こなせない仕事量になっていたのが実情。カウントされない不払残業が構造的に行われていた」、「会社は業務軽減などの対策をとらずに単に残業の規制をしただけ」だと評価し、安全配慮義務違反を認めている。

8.国立大学法人東北大学
2007年12月、東北大学薬学部助手の男性(当時24歳)が「新しい駒を探して下さい」との遺書を遺し、研究室から投身自殺した。
同大大学院薬学研究科博士課程に在籍していた男性は07年6月、「人手不足」との理由で指導教授から請われ退学し、助手に就任。当初の話では学位取得のための研究を優先できるはずが、実験機材の修理や実習指導に忙殺され、自殺直前2ヶ月の時間外労働は104時間、97時間だった。また07年10月からは指導教授の指示により、生殖機能異常などの副作用がある抗がん剤の実験に従事。排気も十分にできない環境で、ほぼ一人だけでの実験を強いられ、友人達に「もう子どもはできない」と漏らしていたという。このような環境にもかかわらず指導教授は、「仕事が遅い。他の子を採用すれば良かった」などと男性を叱責。自殺前にはうつ病を発症していたと見られている。12年3月に宮城県労働局が「業務上の心理的負荷が強い」として過労自殺と認定。12年12月には、遺族が大学側に安全配慮義務違反があったとして、仙台地裁に約1億円の損害賠償を求める訴えを起こしている。
さらに東北大学では12年1月にも、工学部准教授の別の男性(当時48歳)が自殺している。この准教授は、室温でリチウム高速イオン伝導を示す水素化物の開発に世界で初めて成功するなど、学会で注目を集めていたが、11年3月の東日本大震災で研究室が全壊。再開を目指し、授業と並行して国内外に93日出張するなど奔走したものの、ようやくメドがついた12年1月、大学側から「2年以内の研究室閉鎖」を一方的に告げられた。心のバランスを崩した彼は、そのわずか半月後に自ら命を絶った。
男性の死後、遺族は労災を申請し、2012年10月に「過重労働の恣意的強制があった」と認定された。

第1回ブラック企業大賞2012

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【大賞】 東京電力 株式会社 殿

 貴社は設立以来、全国各地に原発を建設し、永年にわたり膨大な数の労働者に危険な被曝労働をさせてきました。
 さらに二〇一一年三月、貴社の福島第一原発事故後、今年五月までに二万二〇〇〇人以上の作業員がこの復旧作業に従事。二〇ミリシーベルト以上被曝した労働者は四〇〇〇人を超え、被曝との関係は依然立証されていないものの、わずか一年五ヶ月の間に六人もの方が亡くなっています。
 一方で貴社は事故以前から、これら危険な作業の大半を下請け会社に外注し、それをいいことに原発労働者たちの健康を守る責任を放棄。反社会的勢力による中間搾取さえ許してきました。
折しも下請け業者による被曝線量の偽装工作も発覚しましたが、これにしたところで、貴社の責任が免れようはずはありません。
 これらはいずれも、社会正義の観点から看過できない非人道行為であり、人類の歴史においても類を見ない恥ずべき行為です。
 よってここにブラック企業大賞を授与し、その名を長く記録するとともに、全国の原発を抱える電力会社とともに一日も早い改善を求めます。

2012年7月28日
ブラック企業大賞実行委員会

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【市民賞】 株式会社 ワタミ 殿

 貴社はさる2008年6月、入社してわずか2ヶ月の新入社員森美菜さんを過労自殺に追い込みました。
 美菜さんの死が労災として認定されるに及んで、貴社および貴社の渡邉美樹会長は世論から猛烈な批判を浴びましたが、渡邊会長からは真摯な謝罪・反省の言葉は聞かれず、ツイッターで「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」「ワタミは天地神妙(ママ)に誓ってブラック企業ではありません」などの開き直り、言い訳が並べ立てられるのみでした。
 現在も貴社は様々な社会貢献活動を行い、渡邊会長の著書には「夢」を持つことの重要性が再三説かれています。
  しかし従業員の人生を踏みつけにし、美菜さんの夢を未来永劫奪ったあなたにそれを語る資格がないこと、今のままでは単なる偽善にしかならないことは、今回のウェブ投票および会場参加者からの投票*における圧倒的な支持率が示しています。
 よって貴社の厚顔無恥な言動に対し「市民賞」を授与し、貴社が掲げる経営目的「会社の繁栄、社員の幸福、関連会社・取引業者の繁栄、新しき文化の創造、人類社会の発展、人類の幸福への貢献」が、単なる言葉だけのものでなくなる日が来るよう、願います。

2012年7月28日
ブラック企業大賞実行委員会

*総投票数:20116(ウェブ投票20071、会場投票45)のうち
 ワタミの得票数:10024(ウェブ投票10010、会場投票14)で
 総投票数の49.8%を獲得 

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【特別賞】 株式会社 ウェザーニューズ 殿

 貴社はさる2008年10月、希望を抱いて入社した新入社員を、わずか6ヶ月で過労自殺に追い込みました。
 本来ならこの一点を以っても大賞に値します。しかし貴社の場合、試用期間を「予選」と称して新入社員に忠誠心を競わせる手法、「天気は眠らない」という理由で従業員に長時間労働を強いる非論理的体質、亡くなる前の被害者に送りつけた人権意識のかけらも感じられないメールの文面、さらに遺族に再発防止を約束しておきながら、労働時間の偽装が疑われているなど反省がなく、ブラックなエピソードがよくぞここまで集まったと、驚かざるを得ません。
 よって貴社をブラック企業の特徴を満遍なく備えた「典型的ブラック企業」と認め、ここに特別賞を贈呈します。

2012年7月28日
ブラック企業大賞実行委員会

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【ありえないで賞】 株式会社 ゼンショー 殿

 貴社は度重なる違法行為によりアルバイト従業員から提訴されましたが、「組合員との契約は業務委託であり、雇用する労働者ではない」という摩訶不思議な論理を主張しました。
 さらに従業員を刑事告訴するなどびっくりするような行為を繰り返しました。
この間の貴社の一連の行為はごく控えめに表現して、駄々をこねる子どものそれであり、貴社の言い分にしても、およそ社会への責任を負う、公的な企業のものとは思えません。
 よってここに「ありえない賞」を贈呈し、社会の一員たる自覚を持つよう促します。
2012年7月28日
ブラック企業大賞実行委員会

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【業界賞】 SE業界

株式会社 フォーカスシステムズ 殿
株式会社 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 殿

 貴二社は、近年理系学生の就労機会が増えているIT企業に属しますが、IT業界は「デスマーチ」という言葉で表現されるように、慢性的な長時間労働の温床と言われています。
 また機械相手の孤独な作業を強いられるSEの仕事は鬱病を発症しやすいと言われており、実際に貴社でも、若手SEが鬱になった結果、死に追いやられています。
 一方で労働行政や司法が、その仕事内容について理解が乏しいことから、労災認定を受けるのは他業界と比べても難しいとされ、業界の改善は依然遠い現状にあります。
 そうした現状にあって過労死が正式に認定され、裁判で遺族が勝訴した貴社の事例は、痛ましいながらも貴重と言えます。
 よって貴社をIT業界を代表するブラック企業と認め、業界全体が改善されるきっかけとなることを願い、「業界賞」を授与します。

2012年7月28日
ブラック企業大賞実行委員会

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【参考資料】

1. ウェブ投票の結果
   総投票数 20,071票

   第1位 株式会社 ワタミ                                10,010票 (50%)
   第2位 東京電力株式会社                      4,702票 (23%)
        第3位 株式会社 丸八真綿                   1,254票 (6%)
   第4位 株式会社 フォーカスシステムズ         827票 (4%)
   第5位   有限会社 陸援隊および
                         株式会社ハーヴェスト・ホールディングス                765票 (4%)
   第6位   株式会社 ゼンショー                                752票 (4%)
   第7位   株式会社 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 597票 (3%)
   第8位   株式会社 ウェザーニューズ                     503票 (3%)
   第9位   株式会社 すかいらーく                           388票 (2%)
   第10位 株式会社 九九プラス                                273票 (1%)

2.会場投票の結果
   総投票数 45票

   第1位 株式会社 ワタミ                               14票
   第2位 株式会社 ゼンショー                  11票
        第3位 株式会社 ウェザーニューズ        9票          
   第4位 株式会社 九九プラス                   4票
   第5位 株式会社 すかいらーく                2票
        株式会社フォーカスシステムズ      2票
        株式会社 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ 2票 
   第8位 株式会社 東京電力             1票

1. ワタミ(株)
2008年6月、26歳の女性社員、森美菜さんが入社してわずか2ヵ月で自殺。「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません。どうか助けて下さい。誰か助けて下さい」――亡くなる1ヵ月前に森さんは手帳に書いていた。
最長で連続7日間の深夜勤務を含む長時間労働や、連日午前4~6時まで調理業務などに就いたほか、休日も午前7時からの早朝研修会やボランティア活動、リポート執筆が課されたりと、森さんの労働には過酷きわまる実態があった。
入社直後の5月中旬時点で1ヵ月の時間外労働が約140時間に上り、すでに抑うつ状態に陥っていた。遺族は「長時間の深夜勤務や、残業が続いたことが原因だった」などとして労災の認定を申請、2009年に横須賀労働基準監督署は仕事が原因とは認めず、遺族が神奈川労働局に審査を求めた。
神奈川労働局の審査官は、「残業が1か月あたり100時間を超え、朝5時までの勤務が1週間続くなどしていた。休日や休憩時間も十分に取れる状況ではなかったうえ、不慣れな調理業務の担当となり、強い心理的負担を受けたことが主な原因となった」として、今年2月14日にようやく労災認定がされた。

2.  (株)ウェザーニュース
同社は天気予報の情報を提供する会社であり、船舶やメディアへの提供の他、携帯電話での情報提供サービスも行なっている。気象予報士も社員にいて、テレビ番組などに派遣されている。
2008年に新入社員(25歳)が入社後半年で過労自殺。予報士になることを小さい時から夢に見ていた社員が、「予選」と呼ばれる試用期間の研修や、上司からの叱責に耐えられず自殺するに至った。研修で目標達成できないこの社員に対して、会社は「なんで真剣に生きられない」「君は何のために生きているの?」「会社に迷い込んだのか?」「まだ君は自分と向き合っていない」などの言葉で追い詰めていった。
労働時間が月200時間を超える月もあったことから、2010年6月に千葉労働基準監督署が「長時間労働による過労自死」と認定。裁判は和解の末、会社は再発防止を約束した。しかし、その後も社員の労働時間など偽装した疑いがあり、自分の働き方に不安を感じた他の社員(外国籍)が組合を結成。

3.  「すき家」(株式会社 ゼンショー)
2008年4月、牛丼すき家仙台泉店で働くアルバイト従業員3名が、株式会社ゼンショーに対し、未払いの本給、時間外割増賃金および紛失立替金の支払いを求めて裁判を提起した。原告ら3人は、2005~2006年に月間最大169時間の残業をしたが同社は支払いを拒否。また、原告の一人は事実上の店長だった時、店の売上金56万円が紛失したとして賃金から全額を天引きされ、返金を求めたが、同社は応じなかった。
この訴訟では、結審日として予定されていた2010年9月10日を前に突如、会社が8月26日に原告らの請求額合計994,777円をすべて認諾して、訴訟は終了した。
この過程で、アルバイト従業員3名が加入する「首都圏青年ユニオン」が2007年1月、残業代支払いやシフト差別等の問題について団体交渉を求めたところ、会社は団体交渉を拒否。そのため組合が団交拒否の不当労働行為救済申し立てを行い、2009年10月、東京都労働委員会は組合の申し立てを全面的に認め、会社に団交に応じること等を命じる命令を出した。
しかし同社はこれに対し中央労働委員会に再審査を申し立て、中労委は、2010年7月21日付の命令書を交付し、会社の再審査申し立てを棄却した。都労委の命令書などによると、ゼンショーは組合員の一部との契約は業務委託で、雇用する労働者ではないとして団交に応じなかった。だが、従業員は会社のマニュアルに従い、決められたシフトで働いていることから、都労委は労働契約関係にあるとして会社の主張を退けている。
同組合は、2012年7月現在、同社の団体交渉拒否に対する損害賠償訴訟を継続中。なお、ゼンショーは、首都圏青年ユニオンとの団交に応じるように命じた中労委命令を不服として国を提訴している。

4.  「SHOP99」(現ローソンストア100)(株式会社 九九プラス)
2011年5月31日、安売りコンビニエンスストア「SHOP99」元店長が、権限のない「名ばかり管理職」で残業代なしの過酷な長時間労働で健康を壊したとして、未払い残業代と慰謝料の支払いを認める判決が出された。判決では、この店長が「名ばかり管理職」だったと認め、会社側に対し、残業代44万8376円と付加金20万円、慰謝料100万円の計164万8376円を支払うよう命じた。
SHOP99を運営するのは、コンビニ大手ローソンの完全子会社、九九プラス。店長は、2006年入社後、わずか9カ月で店長となったが、「管理監督者」扱いで残業代は払われず、店員時代より賃金は8万円も下がった。37日連続勤務など過酷な労働が原因で、うつ状態と診断され、入社から1年2カ月で休職に追い込まれた。
判決では、店長の職務内容、責任、権限、賃金からみて「管理監督者に当たるとは認められない」と指摘。「時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである」とした。うつ状態についても、「業務と本件発症との間には相当因果関係が認められる」として、会社が安全配慮義務に違反したと断じている。この店長は、「判決は、自分の思いに後悔のない中身になっている。健康を取り戻せず、苦しかった。やっぱり働きたい。会社は人を人として扱ってほしい」と語った。

5.  株式会社 すかいらーく
ガスト、バーミヤン、ジョナサン、夢庵、グラッチェガーデンズ、すかいらーくなどファミリーレストランを全国チェーン展開している。2004年8月、グラッチェガーデンズ店長だった中島富雄さん(当時48歳)が過労死で亡くなった。直前の月は180時間を超える残業を強いられ、夜中の3時に帰宅して6時30分には出かける日もあった。
上司からは「いやならヤメロ」とか「コジキになれ」などとの暴言を浴びせられる日々だった。中島さんの死後、妻の晴香さんが遺族として全国一般東京東部労組に加入し、会社と団体交渉を重ねた結果、会社が謝罪し、損害賠償金を支払うことと再発防止策を実施することなどで解決した。
その賠償金をもとに晴香さんは「過労死をなくそう!龍基金」を設立。過労死・過労自殺の根絶に貢献した団体や個人を毎年、中島賞として表彰している。
ところが、2007年10月、すかいらーくの契約店長だった前沢隆之さん(当時32歳)が過労死で亡くなった。前回の過労死で再発防止を約束したにもかかわらず、またもや過労死を出したのである。店長を1年雇用の有期契約として非正規化し、雇用の不安定化と低賃金に置いたうえに長時間労働を押しつけるという悪らつなやり方も浮き彫りになった。前沢さんの母の笑美子さんがやはり全国一般東京東部労組に加入し、交渉で会社側に非正規労働者でありながら正社員と同等の損害賠償金の支払いを認めさせた。

6. 株式会社フォーカスシステムズ
2006年9月16日の深夜、当時25歳の男性が、京都・鴨川の川べりでウイスキーをラッパ飲みし、急性アルコール中毒で死亡した。720mlのウイスキー瓶には中身が2cmほどしか残っておらず、正常な判断ができれば明らかに避ける飲み方だった。
亡くなったのは、独立系IT企業「フォーカスシステムズ」(本社・東京都品川区 JASDAQ上場)に勤める、4年目のSEだった。同社は大相撲の八百長事件の調査にも使われたデジタル鑑識の大手だが、男性の仕事は3年目に急激に多忙となり、この年4~6月の残業時間は132時間、206時間、161時間と過労死基準を大幅に超過。年間トータルでは1350時間に達した。亡くなる3ヶ月前の06年7月、同じSEでも従来のウェブ系と全く畑違いの「組み込み系」部署へ異動。だが、この業務では不慣れから納期を逼迫させ、降格も経験。残業時間も8月に130時間、9月も半月で50時間を超え、自宅でも出勤前の朝食時、両親の見ている前で寝入ってしまうことが増えていたという。
いつもどおり家を出た後、衝動的に京都へ向かったその日は初めての無断欠勤だった。男性の両親は「息子の死は過労でうつ病を発症した結果」と訴え、中央労働基準監督署に労災を申請。07年10月10日認定されたが、遺族が弁護士を通して補償の申し入れをすると、会社は「当社と本件との間に因果関係は認められないものと考えている」と回答した。 11年3月7日、東京地裁は会社に5960万円の損害賠償を命じる判決を出した。遺族代理人によると、精神疾患を原因とする急性アル中死で会社の法的責任を認めたのは初めて。 
★参考サイト:『回答する記者団』)

7. 有限会社陸援隊 および
  株式会社ハーヴェスト・ホールディングス
乗客7人が死亡、乗客乗員39人が重軽傷を負った「関越自動車道高速バス居眠り運転事故」(2012年4月29日)。上記2社は、この事故におけるバスの運行会社と、バスツアーを企画した旅行代理店である。
国土交通省関東運輸局の特別監査の結果、陸援隊が「(道路運送法で禁じられている)運転手の日雇い雇用を行っていた」「運転手の過労防止措置が不十分だった」「高齢・初任の運転手に適正診断を受けさせていなかった」など28項目242点の法令違反が発覚。また国交省近畿運輸局が立入検査した結果、ハーヴェスト社にも「委託先バス会社の名前を乗客に事前に知らせていなかった」など複数の法令違反が確認された。
国交省は6月22日、陸援隊の事業許可取り消し処分を決定。また7月4日には観光庁もハーヴェスト社を事業停止処分(47日間)としたが、同社は同6日に事業継続困難を理由に事業廃止を申請している。現在は破産申請に向けて準備中とされ、被害者への補償問題はますます先行きが見えなくなっている。なお高速バス業界では、規制緩和に伴う過当競争勃発の結果、2社同様のコンプライアンス違反は「日常的」との指摘もある。

8. 株式会社 丸八真綿
丸八真綿(本社・静岡県浜松市)は、高級布団の訪問販売を主力とする寝具の製造販売会社。50年の業歴を有し、1970年代には人気力士・高見山を起用したCMで知名度を上げた。
布団の訪問販売は、「押し売り商法」「クーリングオフ妨害」などの消費者問題を業界全体として抱えているが、今回のノミネートは、会社分割制度を悪用して従業員を不当解雇した、以下の事例による。同社は08年4月、製造部門のベテラン社員О氏に退職勧奨を行ったが、О氏が管理職ユニオン東海に加入して抵抗すると、「森田店」という訪問販売部門を新設し、そこに他の組合員2名とともに異動させた。
さらに同社は09年2月、会社分割により新設した子会社「エム・フロンティア」に森田店の業務を継承。この会社にО氏を強制転籍させると、実体のある事業を何も始めないまま7ヶ月で同社を解散し、О氏も整理解雇した。 現行の会社分割制度では、労働者は分割子会社への転籍を拒めないとされる。だがO氏は、エム・フロンティアは従業員解雇のみが目的のダミー会社であり、自身の転籍も無効と主張。整理解雇後の未払い賃金・賞与の支払などを求めて会社を提訴した。
2011年3月24日、裁判所はО氏の主張をほぼ全面的に認める形で和解を勧告。丸八真綿もこれを呑み、同社がО氏に解決金(未払賃金・賞与のほか、定年までの約2年分の将来賃金・賞与分を含む)を払うことで解決した。

9. 株式会社 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ (富士通SSL)
富士通SSLは富士通の下請け企業である。2002年4月に同社に入社しSEとして働いていた新卒男性社員が2006年に急性薬物中毒で亡くなった。
1カ月80時間以上の深夜勤を含む時間外労働を強いられ、先行実施が同年末に迫っている地デジプロジェクトへの従事、人員不足などもあり厳しい職場環境だった。長時間労働にもかかわらず会社側は増員することもなく、職場に仮眠を取れるようなスペースもなく、疲労を回復することができない。また、せまい事業所内で人が多く二酸化炭素濃度も高かった。さらにミスが多いと納期に間にあわなくなってしまうため、ミスが許されず精神的負担を強いられる。比較的単純な作業で達成感が得られない。
こうした労働の結果、男性は2003年9月にうつ病を発症してしまい、休職と復職を繰り返すようになり、治療薬を過量服用して27歳で亡くなった。 2006年に男性の遺族が行った労災申請では薬物の過量服用が労災と認められず不支給処分となった。
しかし2011年3月25日に遺族が行政訴訟を起こし、上記のような業務環境の過重性がなければうつ病を発症せず、過量服用に至ることもなかったと判断された。同年4月に厚労省が控訴を断念したことで過労死であるとの労災認定がなされることとなった。
「ブラック企業」という言葉を広めることとなった『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』でも描かれているように、SEの職場環境の過酷さについては一定の認知を得ているが、若年のSEが過労死し労災が認められた裁判例は乏しい。このことからも同社をブラック企業の象徴として認定することの意義は大きい。また同社が富士通の下請けという点も、ブラック企業を生み出す大企業-下請けの業界構造の問題を端的に示唆しているといえる。
★参考サイト:「システムエンジニア西垣和哉さんの過労死認定を支援する会HP

10.  東京電力 株式会社
2011年3月11日、東日本大震災の後に発生した福島第一原発事故により、広範囲にわたる放射能汚染を引き起こした。その収束に向けての対応、また避難者・被害者への保障についても、2012年7月現在も不十分といわざるを得ず、日本全体の社会、経済に多大な被害を与え続けている。また農地や海、川や山という自然環境そのものの放射能汚染は、今後数100年、数万年にも及ぶため、人類・自然環境への影響は計り知れない。
労働という視点では、同社は原発稼働・点検のために多数の労働者を必要としているが、その多くは正社員ではなく、派遣・日雇い労働者によるもので、5次・6次にわたる多重請負の構造がある。その中では、被曝に関する安全管理や教育も不十分であり、また使い捨てともいえる雇用状態が続いている。これら総合的な観点から、今回のノミネートに至った。

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